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【成年後見】成年後見制度利用促進基本計画が閣議決定されました。 ほっかい法律事務所大崎 康二平成29年3月24日に「成年後見制度利用促進基本計画」が閣議決定されました。
成年後見制度は,平成12年に制度がスタートしましたが,日本社会の高齢化の中で年々利用数を増やしており,平成27年度末時点の統計では全国で約19万人の方について成年後見手続(保佐,補助含む)がとられているとされています。
しかし,成年後見手続の対象となるべき認知症高齢者の数は,平成24年の統計で462万人とも推計されていて,この推計人数からすると,日本社会の中で成年後見制度の利用が進んでいる状態にあるとは言いがたいのが現状です。
その原因は,自分の親や配偶者に関して成年後見手続の申立を行なうことに対する家族の心理的な抵抗感であったり,成年後見の申立をしなくても家族が事実上ご本人に代わって日常の家計管理を行なうことはできてしまうこと,成年後見の申立を行なうと後見人となる家族は裁判所への報告義務などが生じるなど手続的な負担感が強いことなどが上げられると思います。
その一方で,成年後見制度がスタートして15年以上が経過する中で,特に成年後見人となるべき親族がいないケースなどにおける後見人の担い手不足,成年後見人を監督する裁判所のキャパシティオーバー,成年後見人による不祥事対策,専門職後見人(弁護士,司法書士など)への報酬が支払困難なケースの増加など,成年後見制度の利用を妨げる種々の問題点が指摘されるようになっています。
このような状況の中において,平成28年4月には成年後見制度利用促進法が施行され,成年後見制度のより一層の利用促進を目指して,成年後見制度を取り巻く問題の解決に国が取り組んでいくことが確認されました。
この成年後見利用促進法に基づき,国が成年後見制度を取り巻く課題を整理し,今後の取組のアウトラインを示したのが今回閣議決定された「成年後見制度利用促進基本計画」です。
この基本計画の中では,今後5年間についての成年後見制度の周知や各課題への取組に関するタイムスケジュールが策定されました。これを受けて,今後は成年後見制度の利用を促す政府広報を積極的に行なうと共に,成年後見に関する地域ネットワークの構築などが進んでいく見込みです。
ただ,この基本計画を見ると,国が成年後見制度の利用が進まない原因として考えているのは,制度周知の不十分さが主であるようです。
しかし,成年後見制度の周知が進んだとしても,成年後見制度のスタートには基本的に家族による申立が必要であることを考えると,成年後見に対する家族の抵抗感・負担感というものが解消されなければ,成年後見制度の利用が進むことにはなりませんので,果たしてどこまで実効性のある改革になるのかはまだ不透明です。
また,この基本計画策定作業の中でパブリックコメントの募集があり,そのかなりの割合の意見として,専門職後見人の報酬助成制度の拡充を求める意見がありましたが,この点については,基本計画の中では踏み込んでは記載されていないため,現場の声がどこまで反映された改革になるのかも不透明です。
個人的には,現状は弁護士や司法書士などの専門職が裁判所からの依頼で成年後見人に就任するケースの相当数において,保有資産の少なさから専門職後見人に対する報酬を支払うことができず,専門職後見人がボランティアでの活動を強いられているという問題があり,この問題のために行政による報酬助成制度の拡充が不可欠です。
成年後見制度の改革はこれからが本番です。よりよい制度になるよう祈りながら,作業の進捗を注視していきたいと思いますし,誰もが将来利用する可能性がある制度ですので,社会として関心を持って,今後の作業を見守っていく必要があると思います。