ブログ

  •  > 
  •  > 
  • 建物の明渡し実現のための方法とは?即決和解を利用した建物の明渡し
  • 建物の明渡し実現のための方法とは?即決和解を利用した建物の明渡し
    ほっかい法律事務所
    大崎 康二

    最近、不動産の明け渡しに関する相談が増えています。

    主には、賃料の滞納がある、建物内での迷惑行為があるなどの理由で、賃貸借契約を解除して退去を求めたいという相談です。

     

    このような賃料の滞納ケースにおいて問題となるのは主に2点です。

     

    ひとつは「どの程度まで賃料の滞納があれば賃貸借契約の解除が認められるのか」という点。

    もうひとつは「契約解除が認められた場合にどのようにして明け渡しを実現すればよいのか」という点です。

     

    今回はその2点を解説し、より確実に早期に明け渡しを実現できる「即決和解」という方法についても説明していきます。

     

    即決和解とは?

    「即決和解」とは、裁判上の和解の一種で、民事上の争いのある当事者が、簡易裁判所に和解の申立てをし、紛争を解決する手続です。

    このページで詳しく見ていきますが、建物の明け渡しについては相手が約束の期日までに明け渡しをしないなど、さまざまなトラブルが考えられます。

     

    相手が約束を守らない場合への備えとして「即決和解」を申し立てれば、裁判を経ずに立ち退きを強制執行することができるのです。

     

    賃貸借契約の解除が認められるためには

    まず「どの程度まで賃料の滞納があれば賃貸借契約の解除が認められるのか」という点についてです。

     

    「信頼関係」が破壊されることが必要

    賃貸借契約は、賃貸人と賃借人との間の「信頼関係」を基礎とする契約とされています。

    そのため、賃貸借契約の解除のためには、賃料の滞納により賃貸人と賃借人との間の「信頼関係」が破壊されることが必要とされます。

     

    「信頼関係」の破壊ということであれば、賃料を1カ月でも滞納すればその賃借人の信頼は失われますので、「信頼関係」の破壊があったと考えてもよさそうです。

     

    このような発想からか、賃貸借契約書の中には、賃料を1カ月滞納しただけで賃貸人からの契約解除を可能とする契約書もあります。

     

    しかし、実際には賃料を1カ月滞納したとして賃貸借契約の解除通知を出したとしても、後日の裁判でその解除が有効と判断されることは,基本的にはありません。

     

    「信頼関係」の破壊はどのように判断されるか

    賃貸借契約は、賃借人にとっては生活や事業の拠点に関わる重要な契約であるため、裁判の中では「信頼関係」の破壊の有無については慎重に判断されます。

     

    「信頼関係」の破壊について明確な判断基準があるわけではありませんが、裁判所は、滞納期間、滞納理由、当事者間の交渉状況等を踏まえて判断しているとされています。

    これらの判断要素のうち、最も重要なのは滞納期間ですが、あくまで判断要素の一つであるため「◯ヶ月間の滞納があれば解除が認められる」というように単純に図式化をすることはできません。

     

    過去の判例では、2カ月の滞納で解除を認めたものもあれば、6カ月以上の滞納でも解除が認められなかった例もあります。

     

    個人的には、客観的状況から判断して、賃借人が滞納状況を解消する現実的な可能性が残されているかによって判断が分かれると思っています。

    一定期間の滞納があっとしても、一時的な病気などによる減収が原因になっていて、今後は収入の回復が見込めるような場合には解除は認められにくいでしょう。

     

    それに対して、滞納期間は短くても入居当初から家賃を滞納し、滞納理由の説明が二転三転するなど不誠実な場合には、解除は認められやすくなると考えられます。

     

    3カ月の滞納で「信頼関係」の破壊?

    「信頼関係」の破壊があるかどうかの判断については、3カ月の滞納が目安になるという言い方をされることもあります。

    しかし、実際には様々な事情を考慮して判断されるので、このように滞納期間のみに着目するのは危険だと思っています。

     

    明け渡しを進めるための2つの方法とそのメリット・デメリット

    次に「契約解除が認められた場合にどのようにして明け渡しを実現すればよいのか」についてです。

     

    賃貸借契約の解除後の明け渡しの進め方としては,大きく分けると2つあります。

    「任意交渉によって明け渡しを進める方法」と「民事訴訟によって明け渡しを進める方法」です。

     

    それぞれのメリットとデメリットを大まかに比較します。

     

    任意交渉によって明け渡しを進める方法

     

    任意交渉のメリット

    任意交渉による明け渡しのメリットは、言わずもがなではありますが、早い解決とコストの抑制です。

    賃借人が任意の明け渡しに応じるのであれば、早期に明け渡しが実現できます。

     

    任意の明け渡しに際して退去料を支払ったとしても、民事訴訟を選択した場合の弁護士費用や強制執行の費用に比べれば、明け渡しのためのコストを大幅に抑えることができます。

     

    任意交渉のデメリット

    もっとも、任意交渉による方法には強制力があるわけではありません。

    そのため、賃借人が明け渡しを固持している場合や、行方不明等で連絡が取れない場合などには、明け渡しを進めることはできません。

     

    その意味で任意交渉で明け渡しが上手く進むケースとそうではないケースは、はっきりと分かれるので、任意交渉による方法はケースを選ぶという言い方ができると思います。

     

    民事訴訟によって明け渡しを進める方法

    この任意交渉による限界を埋めるのが、民事訴訟による方法です。

     

    民事訴訟のメリット

    裁判所を利用した場合は、賃借人が明け渡しを固持していたとしても、勝訴判決さえ得られれば強制的に明け渡しを実現できるというメリットがあります。

    賃借人が行方不明であったとしても、公示送達などの方法を利用することにより裁判を進めることができるので,行方不明のケースにも有効です。

     

    このように強制力があるというのは民事訴訟の最大のメリットです。

     

    民事訴訟のデメリット

    【1】明け渡しに要する時間

    しかし、裁判所の手続を利用する場合は、解決までに長時間を要し、また、多額のコストがかかるというデメリットがあります。

     

    どの裁判にも共通することですが、一般に訴訟の提起から判決の言い渡しまでには、長期間を要することになります。

    第一審の裁判所で勝訴判決を得たとしても、相手方が控訴を申立てれば、裁判自体はさらに長期化するという問題もあります。

     

    さらにいえば、家賃滞納の経過などから賃貸借契約の解除に不確定要素がある事案においては、敗訴する可能性があり、これは非常に大きなリスクと言わなければなりません。

    賃料の滞納を理由に明け渡しを求める場合、明け渡しの実現までに長期間を要すると、その間は滞納が継続することになります。

     

    裁判の長期化というのは、賃貸人にとっては多額の損失が発生することを意味しています。

     

    【2】明け渡しに要するコスト

    また、弁護士に依頼をして裁判を進めるのであれば、その分の弁護士費用の負担が発生します。

     

    勝訴判決後の明け渡しの強制執行手続を行うのであれば、それについての弁護士費用のほか、高額な予納金を裁判所に納付することも必要となります。

    このように民事訴訟の場合には多額のコスト負担が生じるという問題もあります。

     

    任意交渉による明け渡しと退去料の支払

    このように、裁判所の手続を利用した明け渡しには時間とコストの点がネックとなります。

    そのため、弁護士として明け渡し案件に関与するときは任意交渉から入り、交渉が決裂したときに民事訴訟を提起するというのが一般的な進め方になります。

     

    また、任意交渉の場面では、相手方に退去に応じさせるために、退去料や転居料という名目で一定金額を支払うことがよく行われます。

    賃料を滞納している賃借人は明け渡しに応じたくても、転居のための前家賃や引っ越し代を出すことができないという方が多いのが現状です。

    手持ち資金を提供しなければ、明け渡しが進みようがないという面がありますし、現に退去料の支払によって早期に明け渡しが実現するケースは多いです。

     

    民事訴訟で時間とコストをかけることを考えれば、任意交渉の段階で退去料を支払ったとしても、トータルの収支としてはプラスになるという考え方もできます。

     

    賃借人が明け渡しの期限を守らない場合は

    このようにして賃借人に退去を認めさせたとしても、実際に約束の期日までに相手方が明け渡しを行うかはまた別問題です。

    退去料を受け取った上で、明け渡しの約束は守らないということがありうるのです。

     

    そうさせないための工夫として、退去料を合意時と退去完了時の2回に分けて支払うといった方法などもありますが、それでも上記のリスクが0になるわけではありません。

     

    立ち退きには即決和解が有用。手続きの流れは?

    このように相手方が約束を守らない場合への備えとして「即決和解」手続の申立てが考えられます。

    「即決和解」というのは、裁判上の和解の一種で、民事上の争いのある当事者が、簡易裁判所に和解の申立てをし,紛争を解決する手続です。

     

    任意交渉のデメリットを埋める即決和解

    任意交渉の段階で当事者間で和解条件が固まっていることが前提になりますが、「即決和解」ではその和解条件が和解調書として公文書化されます。

    この和解調書には判決と同じ効力が与えられています。

     

    つまり、強制力があるということです。

    そのため、相手方が明け渡しの期限を守らないなど、和解条項に違反した場合には、直ちに強制執行を行うことができます。

    新たに民事裁判を提起して、勝訴判決を得るというステップを踏まなくても、強制執行に進むことができるのです。

     

    このように「任意交渉による早期解決とコスト抑制」と「民事訴訟による明渡しの確実性」の両方の特性を有するのが「即決和解」なのです。

     

    公正証書との違い

    同じように強制力を持つ制度に「公正証書」がありますが、「公正証書」で強制執行ができるのは金銭債権に限られています。

    そのため、明渡請求権のような非金銭債権については「即決和解」を選択することになります。

     

    即決和解の手続の流れ

    「即決和解」の手続の流れは、簡易裁判所に申立を行い、当事者双方が出頭して和解内容を確認し、和解調書を作成します。

    手続には当事者双方の簡易裁判所への出頭が必要となるため、賃借人にとっては、裁判所に出向く分面倒が増えることにはなります。

     

    しかし、退去料の支払とセットにすることで、賃借人も比較的抵抗なく裁判所への出頭に応じることが多いという印象です。

    「即決和解」の申立て件数は、司法統計によると10年前と比べ、約半数まで落ち込んでいるようです。

     

    しかし、個人的には不動産の明渡しの場面を中心に積極的に活用されるべき制度だと思います。

     

    即決和解での立ち退きは弁護士に相談を

    家賃滞納によって賃貸契約を解除できるかどうかは、滞納期間だけでなく双方の信頼関係の破壊があるかで判断する必要があります。

     

    契約解除が可能な場合の建物の明け渡しの方法としては、任意交渉や民事訴訟による方法があります。

     

    また、時間と費用を抑えてより確実に明け渡しを実現するには「即決和解」が考えられます。

     

    当事務所では、不動産の立ち退き問題に関するご相談も受け付けております。

    お悩みを抱えている方は一度お気軽にお問い合わせ下さい。