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  • 養育費の請求について。今後回収がしやすくなる可能性も
  • 養育費の請求について。今後回収がしやすくなる可能性も
    ほっかい法律事務所
    樋口 紗弥

    離婚時に養育費について取り決めをしていても、支払いが継続されないということがしばしば問題となります。

    厚生労働省が発表した平成28年度全国母子世帯等調査結果報告によると、母子世帯(妻が子どもを引き取った場合)において、離婚した父親から養育費を「現在も受けている」との回答は24.3%に過ぎません。

    今回は「養育費の決め方」や「養育費の請求・回収の仕方」など、養育費に関して円滑に進められるよう詳しくご説明していきます。

    統計で見る養育費請求

    離婚時に養育費について夫婦間で取り決めてしている割合は、どれくらいだと思いますか?

    上記の報告によると、母子世帯で養育費の取り決めをしているのは37.7%。

    つまり、母子世帯の約6割が、養育費について父親と取り決めをしていないのです。

    養育費の取り決めを行わない理由として最も多いのが次の2つです。

    1.「相手に支払う意思や能力がないと思った」(48.6%)
    2.「相手と関わりたくない」(23.1%)

    「取り決めの交渉をしたがまとまらなかった」を理由とするのは8%に過ぎず、そもそも養育費について夫婦間で話し合いを行わずに離婚するケースが多いことがわかります。

     

    しかし、養育費の支払義務は生活保持義務(父親の生活と同程度の生活を保持すべき義務)とされています。

    たとえパン1枚しかなくても子どもと分け合うべきというのが、生活保持義務の考え方です。

    父親の支払能力については養育費の金額において考慮すべきであり、父親の収入が低くても養育費を一切支払わなくても良いということにはなりません。父親に支払う意思がないというのは、養育費を支払わなくて良い根拠にはならないのは当然です。

     

    また、母親の方がすぐに離婚をしたくても、子どものためには、父親と養育費の取り決めをきちんと行うべきでしょう(もちろん、DV等の緊急性がある場合の離婚の進め方は、別に考える必要があります)。

    上記の調査結果によると、「母子世帯の母が子どもの養育費の関係で誰かに相談した」と回答したのは、54.4%。この内、相談相手として一番多いのは親族です(43.9%)。

    「弁護士」と回答したのは、残念ながら12.4%でした。やはり弁護士に相談するのは敷居が高いのかもしれませんが、離婚前、離婚後、調停中どの段階でも弁護士が関与することは可能ですので、積極的に活用してほしいところです。

    養育費の決め方とは

    そもそも離婚するにあたり、子どもの養育費をどのように定めるべきでしょうか。

    「養育費の決め方」についてもご説明したいと思います。

    養育費を取り決める際には、「将来養育費の支払いが滞るかもしれない」ということを念頭におくことが大切です。

    口頭での約束のみ、もしくは書面にとどめただけという場合、養育費の支払いが滞ったとしても、すぐに給料の差押え等の強制執行の手続をとることができず、早期の養育費の確保が困難になります。

    あらかじめ強制執行手続を可能にするには、次の2つの方法が考えられます。

    1・公正証書

    離婚と養育費について合意ができている場合は、強制執行認諾文言付きの公正証書を作成することができます。公正証書の費用等については、最寄りの公証役場にお問い合わせください(日本公証人連合会のホームページ)。

    もちろん、弁護士に公正証書の作成を依頼することもできます。

    養育費の支払が滞った場合、公正証書を債務名義(法律で定められた強制執行の際に必要な書類)として強制執行が可能となります。

    2・調停

    夫婦間で離婚することについて合意ができず、家庭裁判所に離婚調停(夫婦関係調整調停)の申立を行う場合、子を引き取って観護する親(母親のことが多いです)は、離婚調停において、養育費を請求することができます。

    離婚調停が成立しない場合に、なお離婚を求める場合は、訴訟を提起しなければなりませんが、子を観護する親は離婚訴訟で養育費を請求することができます。

    離婚すること自体の合意ができたが、養育費について夫婦間で話合いがつかない場合にも、同じように離婚調停を申し立てて養育費を請求することができます。

     

    また、養育費について取り決めを行わないまま離婚した場合には、離婚後、養育費請求の調停を申し立てることができます。

    養育費請求の調停が成立しない場合は「審判」という裁判手続に移行し、裁判官が養育費について判断します。

    調停が成立した際には、調停内容が記載された「調停調書」という書類が作成されます。
    訴訟においては「判決」、審判においては「審判書」が作成されます。

    養育費の支払いが滞った場合には、これらの文書を債務名義として強制執行が可能です。

     

    ただし債務名義があっても、養育費の支払義務者(多くは父親)が勤務先を退職し、現在の勤務先がわからなくなってしまうと、給料の差押えはできません。金融機関の口座の差押えも考えられますが、口座のある金融機関がわからないことも多いのが実情です。

    養育費の支払い期間は長期間に及びます。

    子どもが成人するまで支払を確保するのは残念ながら難しいケースもありますので、離婚する前、養育費の支払いがストップした時など、要所要所で弁護士に相談するのが望ましいでしょう。

    養育費の金額はどのように決めるのか

    養育費の算定については、裁判官で構成される東京・大阪養育費等研究会の発表した「簡易迅速な養育費等の算定を目指して―養育費・婚姻費用の算定方式と算定表の提案―」で示された算定表が現在一般的に使用されています。

    算定表は裁判所のホームページ等で見ることができます。

    離婚を考える際や、離婚後、養育費を請求する際には、この算定表を使って、相手方に請求する養育費や自分が支払うべき養育費を試算してみると良いでしょう。

    収入額は、手取り金額ではなく、総支給額を用いるので、ご注意ください。

    養育費を決めた後に、養育費の変更は可能か

    養育費の支払は、子どもが18歳や20歳になるまで続きますので、支払期間中に両親の収入状況等が変わってしまうことあります。

    そこで、「一度決めた養育費は変更できるのか?」という点についてもご説明します。

    結論からいうと、事情の変更が生じたときは金額の変更(増額・減額)、支払期間の変更が可能です。

    どのような場合に「事情の変更」が認められるのか

    ①母親が病気になって仕事を辞めざるを得ず、収入が大幅に減ってしまった。
    ②子どもが私立の学校に進むことになり、高額の学費が必要になった。
    という場合は、子どもと暮らしている親は、養育費を増額してほしいですよね。

    これに対し、
    ③父親が再婚し、再婚した妻との間に子どもが生まれた。
    ④父親が転職したら収入が減ってしまった。
    という場合には、養育費の支払義務者である父親は、養育費を減額してほしいと考えるでしょう。

    また、
    ⑤子どもが18歳になるまで養育費を支払うと取り決めたが、子どもが大学の進学を希望しているので、大学を卒業する22歳まで養育費を支払ってほしい。
    という場合も考えられます。

     

    養育費の変更が認められるのは、以下の3つの要件を満たす場合とされています。

    ・顕著かつ重要な変更が生じたこと
    ・従前の協議のときに、事情の変更を予測することができなかったこと
    ・これまでの金額、期間が実情に合わず、不合理であること

    具体的な事情にもよりますが、①~⑤の事例の場合には「事情の変更」と認められる可能性が高いと思われます。

    手続きとしては、まず当事者間で協議をし、協議で決まらない場合には調停を申し立てることになります。

    調停でも合意に至らない場合には審判で定めることになります。

    なお、調停や審判手続によらず、当事者間の協議で合意ができた場合には公正証書を作成し、強制執行ができる形にしておいた方が良いのは養育費請求の場合と同じです。

     

    養育費の金額ですが、上記①④の場合、事情変更後の双方の収入に基づいて算定表を用います。

    ②③の場合も事情変更後の双方の収入に基づき計算することになりますが、算定表をそのまま使用することができません。複雑な計算が必要になりますので、弁護士に相談することをおすすめします。

    離婚時に辛い思いをして養育費を決めたのに、別れた相手から金額の増額・減額を求められると余り良い気持ちはしないですよね。

    別れた相手と協議することに抵抗を覚える方もいらっしゃるかもしれません。しかし養育費は子どもの生活に欠かせないものです。

    事情の変更が相手方の主張どおり本当に認められるのか、変更後の金額をいくらにするのかなどについて、しっかりと協議しましょう。

    養育費が回収しやすくなる制度へ

    養育費の支払いがない場合、債務者(多くが父親)の預金口座の差し押さえをしようと思ってもどこに預金口座があるかわからず、差し押さえができない場合も多いと説明しましたが、今後、このような状況が改善されるかもしれません。

    民事執行法が改正される見込み

    平成28年9月12日の法制審議会で、養育費の支払を怠っている債務者に対する強制執行の実効性確保の観点から、民事執行法を改正して「財産開示制度」を見直すことが議論され、平成29年9月8日には民事執行法の中間試案が発表されました。

    この中間試案では、

    ・金融機関から、債務者から、預貯金債権に関する情報(口座の有無、支店名、預金の種類、預金額等)を取得できる制度
    ・ 公的機関から、債務者の給与債権に関する情報(勤務先の名称、所在地)を取得できる制度
    の案が出されています。
    また、現在ほとんど利用されていない債務者の財産開示制度を実効的なものにするため、
    ・ 財産開示の手続違背の場合の罰則の強化案
    も設けられています。

    今後の議論で中間試案から内容が変わるかもしれませんが、中間試案を見る限りでは、養育費の支払いがない場合、銀行口座や現在の勤務先がわからなくても、強制執行ができる場合が増えそうです。

    養育費の支払に限らず勝訴判決を得ても、債務者の財産に対し強制執行ができないため、判決が「絵に描いた餅」になってしまい、ご依頼者と共に悔しい思いすることが多くありますので早期の民事執行法改正が待たれるところです。

    養育費の請求でお悩みの方は当事務所へ

    現在離婚をお考えの皆さんは「どうせ養育費を決めても払ってもらえない…」とあきらめるのではなく、お子さんのために、きちんと養育費について取り決めをしましょう。

    札幌の「ほっかい法律事務所」では様々な離婚・男女問題について、ご相談をお受けしております。

     

    養育費の取り決めで悩んでいる、養育費の変更を請求したい、元配偶者から養育費の変更を請求されたなど、養育費でお悩みの方はお気軽にご相談ください。