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交通事故による休業損害。会社経営者の場合の解決事例をご紹介 ほっかい法律事務所堀江 健太会社経営者・会社役員の方が交通事故の被害者となった場合、休業損害や逸失利益が争いになることが多いです。
理由としては、役員報酬には利益配当的要素(労働に対する対価ではないということ)や法人税を調整するために加算した金額等が含まれている場合があり、報酬が高額になりがちなことが挙げられます。
それゆえに、休業損害や逸失利益を算定する際には、役員報酬全額を算定の基礎となる収入と考えて良いのかという点が問題になります。
そこで今回は交通事故による会社経営者や会社役員の休業損害・逸失利益の損害についてのお話です。
会社経営者の休業損害の算定基準や、当事務所での解決事例についてご紹介します。
会社経営者の休業損害の算定基準
交通事故による会社経営者、または会社役員の休業損害は、一般的には役員報酬全額を算定の基礎とすることはできず、役員報酬のうち働いたこと(労務)に対する対価にあたる部分のみを算定の基礎とすると考えられております。
例えば、役員報酬が1,000万円であり、うち600万円は働いたこと(労務)に対する対価と言えるけれども、残りの400万円は会社のオーナーとして会社が得た利益の分配を受けているといえるような場合であれば、1年間仕事を休んで役員報酬が1円ももらえなかった場合、休業損害は1,000万円ではなく600万円となります。
では、どうやって役員報酬の中に含まれる労務対価部分を算定するのでしょうか?
労務対価部分を算定する際には次の要素等を総合考慮し、個別具体的に判断するとされております。
① 会社の規模、同族会社か否か、会社の利益状況等
② 当該役員の地位・職務内容や年齢
③ 役員報酬の額
④ 他の役員従業員の職務内容と報酬給料の額(親族役員と非親族役員の報酬額の差異)
⑤ 事故後の当該役員や他の役員の報酬額の推移
⑥ 類似法人の役員報酬の支給状況
あくまで「総合考慮」であり「個別具体的」な判断であるために被害者と保険会社との間で見解の相違が生じることが多いです。
さらに、会社経営者といっても中小企業や実質的に個人事業主と変わらない会社の場合(税金対策等で法人化している場合等)には、自分が休んだことにより会社の売上が減少し、会社にも損害が発生している場合も多いと思います。
これらの点が争点となったとき「どのような事実や証拠をもとに、保険会社に損害を主張するか」という判断は非常に専門性の高い判断になります。
交通事故による会社経営者の休業損害の解決事例
当事務所で解決した交通事故の交渉案件で、会社経営者の休業損害に関する解決事例についていくつかご紹介します。
【事例1】休業損害が0円から155万円に増額できた事例
建設業を営む会社の経営者が追突事故にあい頚椎捻挫等の傷害を負い、事故後、仕事を休まざるを得なかったという事案です(後遺障害は無し)。
会社経営者の休業損害・逸失利益の考え方について先述しましたが、会社経営者の休業損害・逸失利益は争点になりやすく、本件でも受任前に依頼者が保険会社から受けていた提示では、会社経営者であるという理由のみで休業損害0円と評価されていました。
適正な休業損害を認めてもらうため、受任後、決算書類や勤務表、取引先から提出されている書類等を調査するとともに、依頼者から仕事内容(職人としての仕事、現場監督としての仕事内容、代表者としての営業、事務作業)や頚椎捻挫による症状等の聞き取りを行い、事故前の収入状況や勤務実態、事故後の収入減少や休業の状況、会社の収支の状況等を詳細に調査しました。
調査の結果、依頼者が受取っていた役員報酬は現場に出た際の人工を基準に算定されており、利益配当的要素を含む役員報酬というより現場での労働の対価といえること、そのため、事故による休業中、本来であれば無報酬となってしまうことが判明しました。
もっとも、無報酬では生活をすることができないところ、依頼者は休業中も会社より一定の報酬(最低限の生活費程度)を受取っておりました。
このような事情もあり、依頼者の休業による損害は依頼者個人のみならず会社にも発生しておりました。
依頼者が現場に出られないため依頼者分の人工が会社に入らないことに加え(にもかかわらず、依頼者に生活費程度の報酬を支払い)、依頼者が有する資格を活かすことができないために受注数にも影響が出ていました。
依頼者の報酬が労務提供の対価といえるか否かという点に加え、会社に生じた損害をどう考慮するかという点も問題となる複雑な事案でした。
客観的な資料、依頼者から詳細な聞取り結果を踏まえた上で主張内容を確定し、保険会社と交渉したことにより休業損害が0円から155万円に増額できたと考えております。
【事例2】示談あっせんで休業損害が約80万円増額した事例
依頼者は会社を経営されている方でしたが特に従業員はおらず、事故による通院のため仕事が十分にできず収入が減ったことから役員報酬(会社が取締役などに払う給与)を減額していました。
従業員は居ないため役員報酬は全て依頼者が働いたことに対する対価であることは争いがない事案でしたが、役員報酬の減額の理由となった会社の売上減少が事故と関係するものかどうかが争われました。
保険会社は役員報酬の減額の理由となった会社の売上減少について事故と関係するものかどうかが不明であるとして当初は一切認めない姿勢でした。
また、入通院慰謝料についても軽度の怪我であることを理由にこちらの主張より約30万円低い金額を提案していました。
この件では、話し合いによる解決は困難であると判断し、財団法人交通事故紛争処理センターによる示談あっせんの手続を利用しました。
この手続において、役員報酬の減額の理由となった会社の売上減少が事故と関係するものであることを資料を提出して主張し、また、怪我についても診断書の記載を元に軽度の怪我ではないと主張しました。
その結果、こちらの主張に対しあっせん担当者は理解を示してくれて保険会社に示談を促してくれたため、交渉段階では100万円以下だったところ約80万円増額した金額で示談が成立しました。
【事例3】新規事業準備中に休業損害が認められた事例
こちらのケースは少し特殊で、新規事業準備中の被害者について裁判上の和解で休業損害が認められた事例です。
被害者の方は交通事故に遭う直前に前の職場を退職して新たに事業を始める予定で準備を進めており、事故に遭った時点ではまだ収入はありませんでした。
そのため、相手方は交通事故による休業損害(仕事を休んだために収入が減少したことによる損害)は一切認めないという対応でした。
当方は、民事裁判を提起した上で被害者が退職直後に事故に遭っていること(裁判例でも、事故の前日にアルバイトを退職していた被害者について、前職の給与を基礎収入として休業損害が認められた事例があります。)、被害者が就労の意思と能力を有しており、実際に新規事業を準備中でその準備作業の中断・遅延が生じたことなどを主張して、賃金センサス(賃金に関する統計データで厚生労働省が調査・公表しているもの)の平均賃金を基礎収入として休業損害を請求しました。
相手方は裁判でも休業損害の発生を争いましたが、双方の言い分を聞いた上で裁判所が提示した和解案では、賃金センサスの平均賃金(男子労働者・学歴計・全年齢平均収入)を基礎収入として事故直後の期間及び実通院日数分の休業損害額が算定されました。
この和解案に双方が同意し、被害者は休業損害相当額を含む和解金を受け取ることができました。
会社経営者の休業損害でお困りの方は当事務所にご相談下さい
ご紹介してきたように会社役員や個人事業主の休業損害の算定は、保険会社も請求どおりの額を認めないことが多いです。
また、基礎収入の金額や仕事ができなかった期間の認定をめぐってトラブルが生ずることも多くあるため、法律・裁判手続に通じた弁護士による相談・交渉や、弁護士に依頼して裁判を提起するという方法をとる必要性が高いといえます。
当事務所では、会社経営者の損害以外にも個人事業主の休業損害についても解決事例がございます。
無料の交通事故無料相談も行なっていますので保険会社の対応に困っている方はぜひご活用下さい。