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  • 交通事故損害額算定基準(青本)と民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準(赤い本)の違いとは
  • 交通事故損害額算定基準(青本)と民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準(赤い本)の違いとは
    ほっかい法律事務所
    綱森 史泰

    交通事故による損害賠償においては、損害算定の「基準」がよく問題となります。

    今回は、「交通事故損害額算定基準」(いわゆる「青本」)と「民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準」(いわゆる「赤い本」)の違いについて解説したいと思います。

     

    「交通事故損害額算定基準」と「民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準」について

    加害者の加入する任意保険会社が交通事故の被害者に対して損害賠償額の提示をする場合には、任意保険会社が自ら定めた支払基準に従った賠償額を提示するのが通常です。

     

    しかしながら、交通事故の被害者と加害者の加入する任意保険会社との間には、任意保険会社の定めた支払基準に従うというような合意(契約)はないのですから、被害者としては、保険会社の定めた支払基準に従うべき理由はありません。

    法律上の原則からすれば、被害者は加害者等に対して、事故によって生じた(事故と因果関係のある)損害の賠償を求め得ることになります。

     

    そして、何が事故と因果関係のある損害であるのかや損害の額等については、最終的には訴訟において裁判官が判断すべき事柄であるといえます。

     

    しかしながら、交通事故損害賠償に関しては、大量の事故を迅速に解決する必要性や事故毎に賠償額に大きな差が生じないようにという公平性の観点などから損害額算定の基準が設けられており、多くの事案において算定基準に沿った解決(和解、判決)がなされています。

     

    「交通事故損害額算定基準」と「民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準」は、どちらもこのような裁判等における損害賠償額算定の基準を示したものといえます。

     

     

    青本と赤い本の違いとは?

    「交通事故損害額算定基準」いわゆる青本と「民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準」いわゆる赤い本の違いについて見ていきましょう。

     

    発行名義が異なる

    青本が「公益財団法人日弁連交通事故相談センター」(本部)の発行によるものであるのに対し、赤い本は「公益財団法人日弁連交通事故相談センター東京支部」の発行によるものである点が異なります。

     

    赤い本について歴史をさかのぼりますと、かつては「東京三弁護士会交通事故処理委員会」の名義で公表されていたものが、1996年から財団法人日弁連交通事故相談センター東京支部との共編となり、2004年に東京三弁護士会交通事故処理委員会が解散した後は、現在の名義で編集・発行されるようになったとのことです。

    このような経緯については、赤い本の「発刊にあたって」に記載があります。

     

    なお、かつては、裁判官が裁判所の損害賠償額算定基準を作成して公表していた例もあり(沖野威「東京地裁民事交通部の損害賠償算定基準と実務傾向」別冊判例タイムズ1号参照)、最近でも、大阪地裁において民事交通事故訴訟を担当している裁判官により組織された大阪地裁民事交通訴訟研究会による「大阪地裁における交通損害賠償の算定基準〔第3版〕」(判例タイムズ社、2013年)の出版例があります。

     

    しかし、青本・赤い本は、上記の発行名義からも分かるとおり、いずれも裁判所が作成・公表したものではなく、弁護士(による委員会)が作成しているものです(そのため「弁護士基準」ともいわれます。)。

     

    以上のように、青本・赤い本の発行名義は異なりますが、作成を担当している主な弁護士メンバーには重なりがあるようです。

     

     

    編集方針・利用目的が異なる

    発行主体の違いとも関連しますが、青本が「算定基準とその解説を中心に、全国の参考となる裁判例を掲載」するものとされているのに対して、赤い本は「東京地裁の実務に基づき賠償額の基準を示し、参考になる判例を掲載」するものとされています(公益財団法人日弁連交通事故相談センターのウェブサイト参照)。

     

    すなわち、青本が基本的には全国の相談センターで使ってもらうための本として想定されており、例えば慰謝料基準に関しても下限と上限を示すという形で幅をもった記載がなされていることが特色であるのに対し、赤い本は東京地裁交通部(民事27部)のスタンダードを公表することを基本的な目的とするものであるとされています(松居英二「損害の算定1」東京弁護士会弁護士研修センター運営委員会編「民事交通事故訴訟の実務」〔ぎょうせい、2010年〕77-79頁参照)。

     

    青本と赤い本にはこのような編集方針・利用目的の違いがありますが、現状では、赤い本がほぼ全国で裁判基準として用いられているようです(岸郁子「講演録 交通事故事件の基礎と実務 前編」二弁フロンティア2013年10月号3頁参照)。

     

     

    想定する読者が異なる

    それぞれの本が想定する読者に関し、赤い本は「法曹関係者向けの専門書」(公益財団法人日弁連交通事故相談センターのウェブサイト参照)であるとされています。

     

    青本の内容も専門的なものであり、一般向けの解説書とはいいにくいように思われますが、赤い本よりも丁寧に解説を書き込むというスタイルで編集されているようです(松居英二「損害の算定1」79頁参照)。

     

    なお、青本と赤い本の解説書として、損害賠償算定基準研究会編「三訂版 注解交通損害賠償算定基準」(ぎょうせい、2002年)も発刊されていますが、現在では絶版となっているようです。

     

     

    発行頻度が異なる

    発行頻度に関しては、青本が隔年、赤い本が毎年で出版されており、現時点(平成28年5月)では、青本は平成28年版(25訂版)、赤い本は平成28年版(第45版)が最新のものとなっています。

     

    赤い本の最新版における改定内容については、民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準(赤い本)の改訂内容についての記事もご覧ください。

     

    いずれについても、公益財団法人日弁連交通事故相談センターのウェブサイトから購入申込書をダウンロードして送付することにより購入することが可能となっています。

     

     

    交通事故の損害賠償請求でお悩みの方は当事務所にご相談を!

    以上のような青本と赤い本は、交通事故損害賠償事件を取り扱う弁護士において必携の書であるということができます。

    しかしながら、先にみたとおり、具体的な事案における損害賠償額は本来訴訟において裁判官が個別に判断すべき事柄であることからすれば、「基準」のみを絶対視することは適切とはいえません。

     

    また、青本や赤い本に掲載された裁判例を示談交渉等の場面における根拠として用いる際には、その裁判例がどのような具体的事案に対する判断であったのかを知る必要があり、そのためには、青本・赤い本に掲載されたダイジェストではなく、裁判例の全文を確認する必要があります。

     

    具体的な事案における損害賠償の問題に関しては、北海道内の方限定で交通事故無料相談を実施しておりますので、当事務所までご相談ください。