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  • 医療過誤事件の減少傾向の落とし穴?
  • 医療過誤事件の減少傾向の落とし穴?
    ほっかい法律事務所
    大崎 康二

    医療過誤事件の減少

    私は「医療事故問題研究会」という医療過誤事件の患者側弁護士の研究会に所属しているため,常時,複数の医療過誤事件を受任しています。

    私が医療過誤事件を扱うようになったこの12年の間に,医療過誤事件を取り巻く状況は大きく変化をしていると思います。いくつかある変化のうちの1つは医療過誤事件の減少です。

    全国の裁判所の統計によると,平成4年に全国の地方裁判所に提訴された医療過誤訴訟は370件でしたが,その後は増加を続け,平成16年には1,110件の提訴があったとされています。しかし,これをピークに減少に転じ,平成22年以降は800件前後で推移しています。

    このデータだけを見ると,世の中の医療事故自体が平成16年をピークに減少しているという見方もできるかもしれませんが,本当に単純にそう言えるのでしょうか。

    インフォームド・コンセントの意識の高まり

    平成16年というのは私が弁護士登録をした年ですが,この頃というのは,医療事故が起きたと疑っているのだが,医療機関から何も説明を受けられないという不満を抱えて法律相談に来られる患者さんが多かったように思います。

    まだ,インフォームド・コンセント,つまり,予定している治療内容や合併症のリスク,不慮の結果が生じた場合の考えうる原因などについて,医療機関が患者に説明を尽くそうとする意識が低かったという背景があり,上記のような不満を抱えて,多くの患者さんやご家族が医療過誤の法律相談に来られていたと思います。

    しかし,その後,医療機関側のインフォームド・コンセントに対する意識が向上し,現在では,積極的に説明を行い,それをカルテなどの医療記録の中に記載し,資料化しようという意識が徹底されてきていると思います。

    そのため,上記のような不満を抱えて法律相談を利用される患者さんが大幅に減少しており,その影響で医療過誤訴訟になる件数も減っているのではないかと思います。

    医療機関からの早期の示談提示

    また,平成16年以降の変化ということで言えば,医療事故が起きた場合の医療機関の対応として,医療機関が責任を認め,積極的に患者側に示談金額を提示するというケースも増えていると思います。

    以前,医療過誤の法律相談を受けると,医療機関の対応はまず責任を認めないというのが通常でしたが,現在では責任の有無には言及しないものの,医療機関側から示談金額の提示があり,その金額の妥当性を聞きたいという相談を増えていると思います。

    こういったケースの中には,示談が成立し,法律相談や医療過誤訴訟まで行かずに解決するというケースも多いでしょうから,これらの要因が重なって,現在の医療過誤事件の減少に繋がっているのではないかと考えています。

    まずは弁護士に相談を

    このような変化は,医療機関側にとっては,無用な紛争の回避,早期の紛争解決というメリットがあるため,ある意味当然の変化なのかもしれません。患者側にとっても,充実した説明を受けられ,問題があるケースでは早期に示談金を受領できるという意味では,メリットのある変化なのだと思います。

    しかし,その一方で,本来受け取ることができる金額よりも大幅に低額の示談金額が提示されることもあります。法律相談を受け,低額での示談であることをわかって示談に応じるのであればよいのですが,それをわからないまま,示談に応じているケースがあると思います。

    不幸にも医療事故に遭い,病院側から示談金額の提示があった場合には,まずは弁護士に相談いただければと思います。

    当事務所の医療過誤事件の相談対応については,リンク先をご参照ください。