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  • 後遺障害14級の逸失利益。労働能力喪失期間で大きく変わる?
  • 後遺障害14級の逸失利益。労働能力喪失期間で大きく変わる?
    ほっかい法律事務所
    大崎 康二

    交通事故に遭って、怪我をした場合、一定期間の治療後も何らかの症状が残る場合があります。

     

    この場合、治療終了(症状固定)後に、後遺障害等級の認定手続が行われ、残った症状の重さによって後遺障害等級の認定を受けることになります。

    交通事故の際に請求できる逸失利益や後遺症慰謝料は、後遺障害等級によって変動します。

     

    今回は14級の後遺障害と診断された場合の逸失利益について詳しくお話していきます。

    また後遺症慰謝料についても一緒に見ていきます。

     

    逸失利益とは?14級の労働能力喪失率と労働能力喪失期間

    後遺障害等級で最も軽い等級は14級です。

    主に頸椎捻挫や腰部捻挫など疼痛などの神経症状は残ったものの、CTやMRIといった画像検査上には異常が現れない場合に認定されることになります。

     

    14級の後遺障害には神経症状以外も該当しますが、後遺障害等級14級のケースで最も目にするのはこの神経症状のケースです。

    後遺障害等級がつくと、損害項目として逸失利益の請求が認められるようになります。

     

    逸失利益とは?逸失利益の計算方法について

    逸失利益というのは後遺障害が残ったことによって将来に減収が生じると仮定し、その金額を損害として計算する損害項目です。

    後遺障害が残ったことによって、従事できる業務が制限されることにより、症状固定後の減収が見込まれる、または減収の可能性がある場合に請求できる損害項目になるます。

     

    逸失利益は、「事故前の年収(基礎収入)」、「労働能力喪失率」、「労働能力喪失期間」、「中間利息(ライプニッツ係数)」によって計算されます。

     

    労働能力喪失率

    労働能力喪失率は、後遺障害によって制限される労働能力の割合のことです。

    労働能力喪失率は、基本的には後遺障害等級に応じて認定され、14級の場合、労働能力喪失率は5%が基準です(労働基準局長通牒 昭 32.7.2 基発第 551 号)。

     

    ただし、必ずしも労働能力喪失率が5%で逸失利益が算出されるわけではなく、職業と後遺症の関連性によっては基準を超える労働能力喪失率が認められることもあります。

    例えば、スポーツ選手が足に障害を負い競技を続けられなくなったなど、職業に大きく影響する場合は基準を超える割合で算出される可能性もあります。

     

    労働能力喪失期間

    労働能力喪失期間は、後遺障害により労働能力が制限される期間の長さのことです。

    後遺障害は、症状固定の時点でどのような障害が残存しているのか、そして、その障害は今後も治癒せず残存するものなのかという観点から認定されます。

     

    後遺障害として認定されるということは、基本には永続的に障害が残存することを想定してます。

    そのため、労働能力喪失期間は、症状固定から就労可能年齢(現在は67歳)までの全期間とするのが原則です。

     

    しかし、後遺障害の中には、ある程度の期間は残存するものの、数年後には症状が軽快することが見込まれるものがあります。

    このような発想から、裁判では後遺障害等級14級の神経症状の事案を中心に労働能力喪失期間が抑制的に認定されることがあります。

    例えば、むち打ちで14級の後遺障害が残ったケースでは、労働能力喪失期間が5年と認定される傾向があります。

     

    中間利息控除(ライプニッツ係数)

    労働能力喪失期間は、そのまま逸失利益の計算式には組み込まれません。

    後遺障害による収入減少は、本来であれば症状固定日から就労可能年齢になる日まで、一日ごとに発生するものです。

     

    しかし、逸失利益の支払を交通事故後の数十年間にわたって毎日行うというのは現実的ではありません。

    そのため、損害賠償自体は将来発生する減収部分も含めて、一括で解決することとして、症状固定の時点で将来発生する損害分を含めた全損害の請求が可能となっています。

     

    ある意味では将来発生する損害を前払いで受け取る形になるため、利息の逆の発想になるのですが、中間利息と称する利息を差し引いた金額を損害賠償金として請求できることにしています。

    この中間利息を計算するための数値がライプニッツ係数という数値になります。

     

    民法改正の影響

    ライプニッツ係数は労働能力喪失期間の長さに応じて計算されることになりますが、ライプニッツ係数を計算するために用いる利率は法定利率です。

     

    法定利率については、2020年4月1日より改正民法が施行され、法定利率が5%から3%に変更されました。

    これに伴いライプニッツ係数も変更され、中間利息として控除される金額は民法改正前よりも減額されることになりました。

     

    例えば、労働能力喪失期間20年に対応するライプニッツ係数は、以下のとおり変更となります。

    ・法定利率5% ライプニッツ係数(20年) 12.4622
    ・法定利率3% ライプニッツ係数(20年) 14.8775

     

    この「2.4153」という数字上の差だけを見てもイメージが湧きにくいかもしれません。

    しかし、例えば、基礎収入が400万円で後遺障害等級8級(労働能力喪失率45%)の場合、逸失利益の額は以下のとおりであり、影響は非常に大きいと言わなければなりません。

    ・法定利率5% 400万円 × 45% × 12.4622 = 2243万1960円
    ・法定利率3% 400万円 × 45% × 14.8775 = 2677万9500円

     

    新しいライプニッツ係数が適用されるのは、改正民法の施行後に発生した交通事故からになります。

    交通事故の発生が2020年4月1日の前後で逸失利益の金額が大きく異なってくる可能性があるため、この点は注意が必要です。

     

    後遺障害等級14級の場合の逸失利益の計算例

    では、実際に後遺障害等級14級の場合の逸失利益の計算例を出してみましょう。

     

    今回は以下の例で計算してみます。ライプニッツ係数は、改正民法施行後の交通事故であるとして算出しています。

    ・被害者の基礎収入 400万円
    ・労働能力喪失率  5%
    ・労働能力喪失期間 一般的な5年(5年のライプニッツ係数は4.580)

    【計算】 400万円 × 5% × 4.580 = 916,000円

     

    この場合は、91万6000円が逸失利益となります。

     

    逸失利益も高額に。後遺障害等級14級の労働能力喪失期間が10年と認定された事例も。

    先に説明したとおり、後遺障害等級14級の労働能力喪失期間は裁判では5年と認定される傾向があります。

    示談交渉でも、保険会社側は14級のケースでは労働能力喪失期間を3年や5年と主張してくることが多く、実際に5年前提で示談をすることもあります。

     

    しかし、後遺障害等級14級の場合は5年というのは、あくまで一般的な認定傾向であり、より長期の労働能力喪失期間を認める裁判例は多く出されています。

    後遺障害等級14級であっても、より長期間の労働能力の喪失が見込まれるケースがあり、その場合は裁判の中で労働能力喪失期間の長さを争っていく必要があります。

     

    私が経験した例では、交通事故により顔面の骨折があり、事故後にプレートで固定術を行ったケースなどで、労働能力喪失期間が10年と認められています。

     

    労働能力喪失期間の長さは非常に重要です。

    先ほどの計算事例で用いた労働能力喪失期間5年のライプニッツ係数は「4.580」でしたが、これが10年になるとライプニッツ係数は「8.530」まで上がります。

     

    先ほどの逸失利益の計算を例に出すと、以下のとおりになります。

    ・労働能力喪失期間 5年  400万円 × 5% × 4.580 =  91万6000円
    ・労働能力喪失期間 10年 400万円 × 5% × 8.530 = 170万6000円

     

    逸失利益は労働能力喪失期間により大きく変わるため、より長い労働能力喪失期間を獲得することに意義があります。

     

    後遺障害等級14級の場合の後遺症慰謝料

    なお、交通事故で後遺障害が残った場合は、逸失利益のほかに後遺障害等級に応じた後遺症慰謝料が請求できます。

     

    後遺症慰謝料の金額は、「自賠責基準」「任意保険基準」「裁判基準」などの計算基準によって算出されます。

    弁護士が代理にとして交渉する場合は、このうちの「裁判基準」の金額をベースに示談交渉を進めていくことになります。

     

    自賠責基準

    自賠責保険は運転手に加入が義務付けられている保険です。

    自賠責保険による後遺障害等級14級の後遺障害慰謝料は32万円となります。

    支払額に限度もあるため、後遺障害慰謝料の基準の中では自賠責基準が最も低くなります。

     

    任意保険基準

    任意保険では、保険会社が後遺障害慰謝料を独自に設定しています。

    そのため、はっきりとした金額は明らかになっていません。

    一般的には、自賠責基準以上、裁判基準以下と言われています。

     

    裁判基準

    裁判になると後遺障害慰謝料はより高額に認定されます。

    裁判例での一般的な慰謝料金額は『民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準』(通称「赤い本」)にまとまっており、後遺障害等級14級の場合の後遺傷害慰謝料は110万円とされています。

     

    交通事故の逸失利益、まずは弁護士に相談を

    交通事故で後遺症が残ってしまった場合には、逸失利益や後遺症慰謝料を請求できます。

     

    交通事故の慰謝料を正当な金額で受け取るためにも、逸失利益や後遺症慰謝料は専門家に相談することをお勧めします。

     

    当事務所でも交通事故による逸失利益やその後遺症慰謝料に関するご相談を承っております。

    交通事故での慰謝料にお悩みの方は、ぜひ当事務所の交通事故の無料相談にてご相談ください。