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交通事故訴訟におけるドライブレコーダーの証拠活用 ほっかい法律事務所綱森 史泰2016年12月に,司法研修所の編集による『簡易裁判所における交通損害賠償訴訟事件の審理・判決に関する研究』という書籍が出版されました。この書籍は,簡易裁判所の交通事故事件(物損事件)の審理や判決のあり方について裁判官・裁判所書記官が研究した成果として公表されたものです。
本書では,物損事故事件において責任(事故状況)について争いになった場合に必要となる証拠の一つとして,「ドライブレコーダー」が挙げられており,「事故態様等を認定する際の重要な証拠となる」ものと解説されております(25頁)。
また,本書では,ドライブレコーダーが証拠として役立ったとされるモデルケース(実際の事例を参考にした架空事例)も紹介されています。そのケースでは,追突事故の原因となった被追突者の急ブレーキについて,先行車両との衝突を避けるためにやむを得えず急停止したのかどうかが争点の一つとなりました。
このケースにつき,裁判所は,証拠として提出されたドライブレコーダーの記録内容を検討の上,被追突者が急停止をする必要があったとはいえず,急停止がやむを得なかったとは認められないとして,急停止をした被追突車の過失を8割,追突車の過失を2割と判断しました。
本モデルケースでは,ドライブレコーダーの記録が存在したこともあって,被追突車の急ブレーキが事故の原因となったこと自体については争われることがなかったようですが,ドライブレコーダーがなかった場合には,その点から争いになることも考えられるところです。
ドライブレコーダーの証拠活用に関しては,交通事故の損害賠償算定に当たり参照される,いわゆる『赤い本』の2015年版の下巻にも裁判官の講演録(松川まゆみ裁判官「映像記録型ドライブレコーダに記録された情報と交通損害賠償訴訟における立証」)が掲載されております。
同講演録では,ドライブレコーダーの記録情報の効果的な利用が想定される場面として,信号機の色や合図の有無,一時停止場所での一時停止の有無などの事実が争いになる場合が指摘されています。
他方で,ドライブレコーダーの記録による立証の注意点として,1)ドライブレコーダーの性能や記録条件による影響を考える必要のあること,2)ドライブレコーダーの記録情報から事実を推認する際にはそのプロセスが客観的なものかどうか吟味する必要のあること,3)ドライブレコーダーの記録情報に基づいて事故の発生原因を検討するとレトロスペクティブな分析(後から振り返って事故原因を考えること)や感覚的な印象で判断しがちになるが,過失の有無や程度を考える際には事故当時の運転者の認識・認識可能性を考えるべきことなどが論じられております。
今後,ドライブレコーダーの普及に伴い,今後も交通事故訴訟におけるドライブレコーダーの証拠活用事例は増加していくものと思われます。