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交通事故による椎間板ヘルニアのケースでの後遺障害等級の認定と示談交渉における注意点 ほっかい法律事務所大崎 康二交通事故で強い衝撃を受けたことがきっかけで椎間板ヘルニアを発症することがあります。
椎間板ヘルニアはしびれや痛みといった症状が出て、仕事をはじめ日常生活に影響を及ぼします。
後遺障害として認定を受けることができますが、診察の際に自分の症状を伝えきれなかったり、通院を定期的に行わなかったりすると、後遺障害認定を受ける上で問題になりやすい事案でもあります。
今回は、交通事故で椎間板ヘルニアの後遺障害等級認定を受ける場合に問題となりやすいケースや慰謝料の目安などをご紹介します。
交通事故で問題となりやすい椎間板ヘルニアとは?
椎間板ヘルニアの症状など
椎間板は、軟骨の1つで背骨と背骨との間にあり,背骨を支えるクッションとしての役割を果たしています。
椎間板ヘルニアというのは、その椎間板が変性し、椎間板の内部組織が椎間板から突出してしまった状態のことを指します。
椎間板ヘルニアになると、その発生部位に応じて、上肢もしくは下肢にしびれや放散痛などの自覚症状が出ます(下記のとおり椎間板ヘルニアになっていても、自覚症状は発生しない場合もあります)。
具体的には、椎間板ヘルニアが腰椎に発生した場合(腰椎椎間板ヘルニア)には下肢に、頚椎に発生した場合(頚椎椎間板ヘルニア)には上肢に症状が現れます。
椎間板ヘルニアは、症状が重くなるほど日常生活への影響が大きくなり、中には寝起きにも苦労するものもありますし、職種によっては就労が困難となることもあり、患者の社会生活に大きな影響を及ぼす傷病といえます。
椎間板ヘルニアの発生原因
椎間ヘルニアにはいくつかの発症パターンがあります。
たとえば、スポーツ選手などが繰り返し同じ運動動作を行うことにより、椎間板に衝撃が積み重なり、ヘルニアを発症するというのが一番イメージがわきやすいかもしれません。
外傷性の椎間板ヘルニア
椎間板ヘルニアは交通事故がきっかけで発症することもあり、典型的なのは、交通事故により椎間板に強い衝撃が加わったことによってヘルニアが発生する「外傷性の椎間板ヘルニア」です。
外傷性の椎間板ヘルニアになるには、軟骨である椎間板が一度に変性するくらいの強い衝撃が加わる必要があるため、大きな事故の場合に発症しやすいといえます。
加齢による椎間板ヘルニア
また、椎間板は加齢によってクッションとしての柔軟性が失われていくため、中高年者の中には、交通事故に遭う前から椎間板ヘルニアを持っている方もいます。
このような加齢による椎間板ヘルニアには、特に自覚症状がないケースも多くあるのですが、交通事故などの衝撃がきっかけになって自覚症状が発生することがあります。
このような場合は、交通事故による衝撃が強くなくても、自覚症状が発生することがあり、この点で強い衝撃を必要とする外傷性の椎間板ヘルニアとは違いがあります。
以上のとおり、椎間板ヘルニアは交通事故の大小を問わず発症するため、交通事故の法律相談を受けていると椎間板ヘルニアが問題となっている事例も多く経験することになります。
交通事故による椎間板ヘルニアで問題になりやすいケースとは?
交通事故が原因で椎間板ヘルニアを発症した事案の法律相談を受けていると、後遺障害等級の認定の場面で問題が起きているとケースが多いことに気が付きます。
問題となりやすいケースとしては、以下の3つを挙げることができると思います。
①交通事故の発生日と椎間板ヘルニアの診断日に開きがあるケース
②通院が不定期もしくは通院頻度が少ないケース
③過去に椎間板ヘルニアの治療歴があるケース問題になりやすいケース1
交通事故の発生日と椎間板ヘルニアの診断日に開きがあるケース椎間板ヘルニアの事案では、交通事故直後に椎間板ヘルニアの診断が得られるケースばかりではありません。
たとえば、交通事故によって椎間板ヘルニアの症状のほかに全身痛が発生するようなケースでは、全身痛の治療を優先して行っていくうちに痛みが緩和されていき、それに伴ってそれまで手つかずだった椎間板ヘルニアの症状が目立つようになり、その時点で初めて診断が得られるという経過を辿ることがあります。
この場合は、事故日と診断日に開きがあることから、交通事故後に事故とは別に何らかの原因やきっかけがあって椎間板ヘルニアが発症したと疑われ、後遺障害等級の認定が否定されることがあります。
特に事故当初のカルテに椎間板ヘルニアによる自覚症状の記載がないと、交通事故後に事故とは無関係の原因で発症したと疑われやすくなります。
交通事故後の受診の際の注意点
-我慢せず、遠慮せず、勇気をもって自分の症状を伝える-事故当初のカルテに症状の記載されていない理由で多いのは、椎間板ヘルニアの症状よりも気になる症状があって、その症状についての訴えが中心となってしまったというものです。
このような実態から考えると、受診の際の注意点として、主治医に対しては、自分の症状を余すところなく伝えきることが何より重要です。
人によっては、このくらいであれば我慢できると自己診断をして、自分の症状を伝えなかったり、患者の訴えに関心を示さない主治医の態度に遠慮をして、十分に症状を伝えられないこともあると思います。
しかし、ここで自分の症状を伝えきらなければ、交通事故によって被った被害に応じた適正な損害賠償金を受け取ることができなくなってしまいます。
そのため、患者の心構えとしては、我慢せず、遠慮せず、勇気をもって主治医に症状を伝えることで、自分の症状をカルテに記載してもらうという姿勢が特に重要と思います。
初診の際に自分の症状を伝えきれなかったとしても、次の診察の際にカルテに書いてもらうだけでも結果はだいぶ違ってくるはずですので、できるだけ早く自分の症状を伝えるようにしましょう。
問題になりやすいケース2
通院が不定期もしくは通院頻度の少ないケース椎間板ヘルニアのケースに限らず、治療上は定期的に通院を行うことが大切です。
しかし、病院は平日夜間や土日の診療に限りがあるため、特に仕事を持っていると、定期の通院や十分な回数の通院ができない場合も多くあります。
このように通院が不定期もしくは通院頻度が少ないケースは、やむを得ずにそうなってしまうことも多いのですが、不定期通院や通院頻度の少なさから症状が軽度であると判断され、後遺障害等級の認定が否定されることがあります。
交通事故後の通院における注意点
-通院しやすい病院への転院や整骨院への通院の検討も-そのため、交通事故で通院する場合は、できる限り定期的な通院と十分な頻度の通院を心がけることが必要です。
特に仕事をお持ちの方は、通院が不定期になったり、十分な頻度で通院できないことが多いので、職場に事情をよく説明して、職場の理解を得る通院機会を確保することも重要となってきます。
損害賠償請求を進めるうえでどのくらいの通院頻度が望ましいのかについては、一概に説明することはできないのですが、基本は主治医に推奨された頻度で通院するということに尽きるのだと思います。
もちろん、仕事の都合によっては、希望どおりに通院することができないことも十分にありえます。
特に整形外科は、混雑している病院が多く、診察までに長時間待たされることも多いですし、病院は平日夜間や休日の診察について融通の利かないことが多いので、それが定期的な通院をするうえでのネックになることがあります。
このような場合には、主治医の了解を得て、通院しやすい病院への転院することや、一般的に夜間・土日の対応に融通の利きやすい整骨院に通院することも検討した方がよいと思います。
問題になりやすいケース3
過去に椎間板ヘルニアの治療歴があるケース過去に同じ部位に椎間板ヘルニアを発症していて、治療歴があるケースも問題になりやすいといえます。
カルテには必ず傷病歴の記載があり、これまでに発症した病気や怪我について、診断名、診断時期、治療内容等に関する問診結果が記載されています。
ここで過去に同じ部位に椎間板ヘルニアを発症していることが記載されている場合は、現在の椎間板ヘルニアの症状が直近の交通事故で発生したものなのか、過去の交通事故が原因で以前から発生していたものかが問題となります。
このとき、過去の椎間板ヘルニアは一度完治していて、ヘルニア自体もなくなっていたことが確認できる場合には、特に問題なく損害賠償請求が認められるはずです。
しかし、過去の交通事故による椎間板ヘルニアの症状が直近の交通事故のときまで継続していた場合も考えられます。
このような場合には、事故によって症状が重くなったなどの事情がなければ、直近の事故による新たな損害が発生していないとして、損害賠償請求が否定されることになります。
直近の交通事故前に過去の交通事故による椎間板ヘルニアの症状が残っていたか、残っていたとしてどの程度残っていたかという点は、カルテなどの記録上明らかでないケースもあり、難しい判断を伴います。
後遺障害等級の認定手続とは?
損害保険料率算出機構による事前認定
示談交渉段階で後遺障害等級の認定を行うのは、損害保険料率算出機構という団体です。
この団体は、損害保険会社(共済)が会員となっていて、自賠責保険に対する保険金請求について、各都道府県に調査事務所を設置して、損害額の調査などを行っています。
加害者の保険会社は、被害者に対して保険金を支払う際に自賠責保険に対する保険金請求も併せて行うのが通常です(このような手続を一括請求手続といいます)。
後遺障害等級の認定については、症状固定後に加害者の保険会社(共済)から事前認定の申請を行い、この申請に基づいて、機構が後遺障害等級の認定を行うことになります。
この後遺障害等級認定の判断は、損害保険料率算出機構の職員が行うことになりますが、機構の職員というのは特に専門的な医学知識があるわけでもありませんし、全体的に消極的な判断をする傾向にあります。
そのため、想定より低い等級認定をされる、場合によっては非該当の認定をされるということが少なからず発生します。
異議申立の審査について
そのような場合には、損害保険料率算出機構に対して、後遺障害等級の認定に関する異議申立を行うことになります。
異議申立の審査は、損害保険料率算出機構の中の自賠責保険審査会が担当します。
この審査会は、弁護士、専門医、学識経験者などで構成されており、外部の目が入ることにより、よい客観的で中立的な判断が行われるという制度設計になっています。
実際にどこまで客観的で中立的な観点から審査が行われているのかを外部から知ることはできませんが、経験的には異議申立を行うことによって、事前認定の結果が覆るケースも多く経験しています。
そのため、後遺障害等級の事前認定の結果に不満がある場合は、まずは異議申立を行うというのが第一選択になります。
椎間板ヘルニアの事案で後遺障害等級を争うには?
交通事故により椎間板ヘルニアを発症したケースでも、後遺障害等級の事前認定の結果に不服がある場合は、異議申立を行うことになります。
問題になりやすいケース1であれば、勤務状況などから定期通院ができなかった事情を、問題になりやすいケース2であれば、事故当初のカルテに椎間板ヘルニアに関する症状の記載がない事情を丁寧に説明することで、後遺障害の認定が得られるよう目指します。
問題になりやすいケース3については、純粋に医学的な問題であるため、主治医や協力医の意見書を提出することで専門医の審査委員に訴えかけるという視点が必要となります。
しかし、異議申立を行ったとしても、後遺障害等級が得られないことがあります。
このように異議申立によって解決しない場合には、民事裁判を起こして、裁判の中で裁判官に交通事故が原因で椎間板ヘルニアの症状が発症したという点を認定してもらうことで、後遺障害等級を獲得する必要があります。
もっとも、民事裁判の中で後遺障害等級を獲得することは簡単なことではありません。
後遺障害等級を裁判で争う場合には、医学的な主張立証を丁寧に行い、協力医に意見書を作成してもらうなども必要となるため、通常の民事裁判と比べて、さらに時間と費用がかかることになります。
これらの作業をすべて行うことで、裁判官が後遺障害等級を認定するケースも多くありますが、中には後遺障害等級が認められないケースも残念ながら存在します。
このように考えていくと、やはり民事裁判になる前に後遺障害等級を獲得できるかが重要となります。
後遺障害等級の事前認定もしくは異議申立によって、適切な後遺障害等級を獲得するためにも、先に紹介した受診の際の注意点と通院における注意点を意識して、椎間板ヘルニアの治療に当たることが大切と思います。
交通事故で椎間板ヘルニアになった場合の後遺障害等級や慰謝料の目安は?
交通事故によって椎間板ヘルニアになってしまった場合、認定される可能性のある後遺障害等級は何級になるのでしょうか?
また、その等級に応じた慰謝料はどのくらいになるのでしょうか。
椎間板ヘルニアの後遺障害等級認定の基準
交通事故によって椎間板ヘルニアを発症した場合、後遺障害等級としては、12級または14級の後遺障害等級が認められる可能性があります。
14級に認定される基準は、神経症状の残存が医学的に説明可能であること。
12級に認定される基準は、残存は医学的に証明可能であることとされています。
12級に認定されるためには、MRI検査の結果などの「他覚所見」によって画像で神経症状の原因が確認できることが必要となります。
椎間板ヘルニアの後遺障害等級については、コラム「交通事故によるヘルニア、後遺障害等級の認定に関する問題点」でより詳しく解説しています。
合わせて参照してください。
後遺障害等級に応じた慰謝料の目安
交通事故によって椎間板ヘルニアを発症した場合の後遺傷害慰謝料については、以下が目安の金額となります。
後遺障害等級12級 → 290万円
後遺障害等級14級 → 110万円
民事裁判においては、この金額が後遺傷害慰謝料の基準とされていて、あとは症状の重さや日常生活における支障の程度によって、金額が加算されることもあります。
弁護士が被害者の代理人として保険会社との示談交渉を行う場合には、この裁判基準の金額をベースに交渉を進めることになります。
被害者本人が直接保険会社と交渉する場合には、保険会社によっては、自賠責保険の後遺障害慰謝料額(12級→94万円、14級→32万円)に近い金額を提示することもあります。
もちろん、被害者本人が直接交渉をして、裁判基準に近い金額の示談交渉を勝ち取るケースもあります。
しかし、それは被害者の方の交渉能力によって、示談金額が大きく変動することにもなるので、交通事故の示談交渉は、弁護士に依頼して進めるのが確実で安全といえます。
交通事故の椎間板ヘルニアの事案でお困りの方はご相談を
これまで説明したとおり、交通事故により椎間板ヘルニアを発症した事案は、後遺障害等級の認定に際して問題が発生しやすいといえます。
特に、事故日と診断日にズレがあったり、定期通院ができてなかった場合、過去に治療歴がある場合には問題となることが多くなっています。
後遺障害等級の認定は自賠責保険の調査事務所が行いますが、この認定手続で後遺障害等級の認定が否定された場合、新たに後遺障害等級の認定を得るためには、異議申立の手続や民事裁判を起こす必要があります。
これらの手続において、正しく後遺障害等級を得るためには、椎間板ヘルニアの特性を踏まえた反論を組み立て、協力医から意見書を取り付けるなどの対応が不可欠となります。
そういった対応を被害者本人が行うのは難しく、一定の医学知識を持ち、協力医のパイプを持つなどのノウハウを持った弁護士の助けが不可欠です。
その意味でも、交通事故による椎間板ヘルニアが問題となるケースでは、示談交渉の段階から弁護士に依頼を行うことをお勧めします。
交通事故による椎間板ヘルニアの損害賠償や示談交渉でお悩みの方は、当事務所の交通事故の無料法律相談をご利用ください。