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主婦の休業損害とは?交通事故における主婦休損の算定方法 ほっかい法律事務所横山 尚幸※横山尚幸弁護士は令和3年6月30日をもって当事務所を退所いたしました。本記事は当事務所在籍中に執筆したものです。交通事故で怪我をしてしまった場合、治療費などの実費の出費はもちろん、傷害による入通院のために休まなければならなかった期間の「休業損害」や精神的苦痛による「慰謝料」などの様々な損害が発生することが考えられます。
事故の責任が相手方にある場合には、相手方に対してこれらの損害を請求することになります。相手方が自動車保険(任意保険)に加入している場合には、相手方保険会社との間で交渉をすることになると思います。
休業損害を請求する場合、一般に、交通事故に遭う前の3間の給与手取額の給与手取額の平均額から1日あたりの所得を計算して、休業日数に応じた休業損害の賠償を受けています。
では、具体的な収入がない専業主婦の場合は休業損害を算定するのでしょうか?
また、兼業主婦の場合はどのような算定方法になるのでしょうか?
なぜ主婦休損は問題となっていた?
かつては、主婦休損を認めないという考えも有力でした。
賠償されるべき「損害」の伝統的な捉え方(=差額説)に理由があります。
賠償の対象となる損害を、交通事故がなかったならば被害者が得られたであろう収入と事故後に現実に得られる収入との差額とみる考え方です。差額説を形式的に貫くと、主婦は家事労働により現実に収入を得るわけではない以上、事故の前後で具体的な減収は生じず、損害の発生が認められないことになります。
もっとも、現在では、家事労働の潜在的商品性(家事労働を市場的に調達すれば、有償で出費を余儀なくされるところ、家事労働は、たとえ無償で提供されていてもそれだけの価値を生み出すと考えることができる)に着目し、主婦休損を認めることが一般的です。
主婦休損の算定方法
一般的に、休業損害は次のように算定されることが多いです。
① 収入日額×認定休業日数(×○○%)② 収入日額×期間Ⅰ+収入日額×期間Ⅱ×○○%+収入日額×期間Ⅲ×○○%+・・・
症状の推移を根拠に、時間経過とともに怪我の主婦業に対する影響が減っていったとして損害額を算出する場合、このように算定されます。
弁護士が主婦休損を請求する場合、賃金センサスの女子の平均賃金を基礎として損害額を算定する扱いが定着しており、
「事故の発生した年の賃金センサスの女性の学歴計・全年齢平均賃金」÷365日
によって、収入日額を算出することが一般的です。
収入日額はこのように算出されることがほとんどですが、「……×認定休業日数(×○○%)」や「……×期間Ⅰ」「×期間Ⅱ×○○%」に統一的な考え方がないため、主婦休損の算定は事案ごとに異なります。
例えば、
収入日額×実通院日数(実際に業院に通院した日)×30%
と算定されることもあれば、
収入日額×事故後1ヶ月間の実通院日数+収入日額×事故後1~3ヶ月の実通院日数×50%+収入日額×事故後3~6ヶ月間の実通院日数×25%
等と計算されることもあります。
兼業主婦の場合の算定方法
では、兼業主婦の場合は、どのように算定されるのでしょうか?
あまり知られていないのですが、兼業主婦の場合、仕事の方で収入の減少があった分と、主婦として怪我のために十分な活動ができなかった分を比較して、いずれか高い方で請求することが可能とされています。
そして、主婦としての活動を仕事に置き換えた場合の年収は、仕事をしている女性の平均年収と同じものとして考えることとされていますので、フルタイムで働いている方でなければ、ほぼ確実に主婦として休業損害を請求した方が高額になります。
保険会社の中には、兼業主婦の方に対して、パート代の休業損害のみを支払って、示談を成立させようと考える担当者もいます。
過去の事例では、パート代のみの休業損害を受け取っていた兼業主婦の交通事故案件で、弁護士介入後、パート代の休業損害とは別に主婦休損として、10万円近く増額できた事案もありました。
裁判と交渉、どちらが多く主婦休損をとれる?
前記のとおり、収入日額に何を掛けるか統一的な考え方がないため、訴訟をやれば一番金額が高くなるとは限りません。
先日、交渉で示談が成立した案件では主婦休損を収入日額×全通院期間(実際に通院した日のみならず、通院しなかった日も含む期間)と算定してもらった事案もありました。
私たちの感覚からすると、訴訟において「収入日額×全通院期間」によって主婦休損が算定されることはまずないと思っております。この事案は、交渉の方が賠償額が高くなった事案でした。
損害賠償請求と保険金支払請求の違い
以上は、責任ある事故の相手方に対する損害賠償請求の話です。
最近、自動車保険(任意保険)に加入する際に、対人賠償・対物賠償(保険に加入した方が事故の相手方に対して負う損害賠償義務を対象とした賠償保険)に加え、人身傷害補償保険(特約)にも加入されている方が多いと思いますが、ご自身が加入されている人身傷害補償保険に対し、主婦休損を請求する場合は考え方が異なります。
相手方に対する「損害賠償請求」と、ご自身が加入している保険会社への「保険金支払請求」では、法的な考え方が異なるということです。
相手方に対する「損害賠償請求」の場合には、交通事故によって被害者に現実に生じた損害について賠償してもらうことが原則です。
ケガによる精神的な損害や専業主婦が家事をできなかった場合の休業損害を厳密に算定することは困難なことから、主婦休損や慰謝料について一定の「基準」が設けられていますが、被害者に現実に生じた損害について賠償してもらうことが原則であることから、被害者の側が、相手方の保険会社等が決めた「基準」に拘束される理由は本来なく、被害者の側としては、相手方保険会社の示した賠償額に納得できなければ、自らが正当と考える損害額を裁判等にて請求することになります。
これに対し、人身傷害補償保険の請求は、保険会社と保険加入者との保険契約に基づく保険金支払請求になり、損害賠償請求とは異なります。
人身傷害補償保険の補償内容は、ご自身の加入している保険契約の内容によって定まることになります(通常「約款」に詳しく記載されています。)。人身傷害補償保険の場合でも治療費等については「実費」が補償されることが多いと思いますが、慰謝料や主婦の休業損害については、契約であらかじめ基準(1日当たりの金額等)が決められており、その基準に従って保険金が支払われることになります。したがって、ご自身の加入している保険会社に対しては、損害賠償における「裁判基準」に基づいて慰謝料や主婦休業損害を請求することは認められません。
人身傷害補償保険では、不当に低い金額にはならないということ?
このように契約内容に従って支払が行われると聞くと、人身傷害補償保険を請求する場合には、補償額が不当に低いということは起こりにくいように思われるのですが、必ずしもそうとは限りません。
例えば、主婦の休業損害の場合には、1日当たりの基準額は契約によって明確に決まっていたとしても、「どの程度の期間、休業することが必要だったのか」という事実の認定については、保険会社との間で見解の相違が生じる可能性があります。このような場合には、保険会社との間で補償額に関して協議したり、あるいは保険金請求の裁判を起こす必要性が生ずる可能性もあります。
主婦休損について保険会社との交渉が必要な場合や相手方への損害賠償請求とご自身の加入している人身傷害補償保険への請求の相違点や相互関係に悩まれた場合には、当事務所の交通事故無料相談をご活用下さい。