ブログ
-
年金分割制度とは?離婚時の年金分割の手続き方法について ほっかい法律事務所樋口 紗弥「年金分割制度」という制度をご存じですか?
年金分割制度は、離婚時や離婚の後に、夫婦の一方の厚生年金を分割し、他方配偶者の年金をサポートする制度です。
結婚していた期間に応じて、年金が分割されます。
今回はこの年金分割制度についてのお話です。
年金分割制度とはどのようなものか、実際に手続を行うにはどうすれば良いのかという点についてご紹介します。
年金分割制度とは?
冒頭でも簡単に触れましたが、「年金分割」とは離婚後にいわゆる年金の2階部分にあたる厚生年金保険料の納付記録を分割する制度です。
公務員等が加入していた共済年金は、平成27年10月に厚生年金に一元化されています。
保険料納付記録とは、年金保険料の算定の基礎となった「標準報酬(標準報酬月額と標準賞与額)」をいいます。
ここでご注意いただきたい点は支給される年金額自体を分割するわけではなく、保険料の算定基礎となる標準報酬を分割するということです。
年金分割は、離婚した高齢女性が経済的に困窮する場合が多いという状況を踏まえ、女性の年金の増加を図る目的で創設された制度で平成19年4月に運用が始まりました。
年金分割には「離婚分割(合意分割)」と「3号分割」の2種類がある
年金分割制度には、「離婚分割(合意分割)」と「3号分割」の2種類があります。
それぞれについて詳しく見ていきましょう。
■離婚分割(合意分割)
離婚分割(合意分割)は、まず離婚する夫婦が合意又は裁判手続により、保険料納付記録の按分割合(最大2分の1)を決めます。
その後、年金事務所に請求することにより婚姻期間に対応する標準報酬額の多い当事者の保険料納付記録を少なかった方の当事者に分割することができる制度です。
■3号分割
厚生年金に加入している会社員や公務員等(第2号被保険者)の配偶者で、年収130万円未満の者(専業主婦等)は、第3号被保険者と呼ばれています。
平成20年4月1日以降の婚姻中に、第3号被保険者期間がある場合に利用できる制度です。
3号分割は、当事者間の合意や裁判手続は不要です。
第3号被保険者が年金事務所に請求すれば、その期間に対応する第2号被保険者の保険料納付記録の2分の1が、第3号被保険者であった当事者に分割される制度です。
離婚分割よりも簡単な手続により、年金分割ができます。
あくまで平成20年4月1日以降の期間について分割されますので、平成20年3月31日以前に結婚している場合には、離婚分割の方が、受け取る金額は増える場合が多くなります。
離婚分割も3号分割も、請求期限が、原則離婚から2年とされているため、注意が必要です。
年金分割の利用状況と受給できる年金額
厚生労働省が発表した「平成28年度厚生年金保険・国民年金事業の概況」には、厚生年金保険における年金分割の状況として、「離婚等に伴う保険料納付記録件数の推移」が掲載されています。
これを見ると年金分割の請求件数自体は増加傾向にあるものの、全体の離婚件数に対する年金分割利用の割合はようやく1割を超えたという状況です。
調停離婚や裁判離婚の場合の多くが年金分割が行われていると思われますので(調停申立書の書式にも年金分割のチェック欄が記載されています)、裁判所の手続によらない協議離婚の場合の大半が年金分割の請求をしていないと考えられます。
離婚分割を実際に行い、年金を受給している人の年金額の推移については、「離婚分割 受給権者の分割改定前後の平均年金月額等の推移」と「3号分割のみ 受給権者の分割改定前後の平均年金月額等の推移」が参考になります。
離婚分割の場合、平均月額で3万円余りがプラスされています。
これに対し、3号分割の場合、直近の平成28年度の平均月額の増加額は約5000円余りです。
これをみると、特に3号分割については増加額が少ないように思われるかもしれません。
しかし、今後は高齢化が進み年金の受給期間が長期になることを考えると、たとえ1か月の増加額が限られていても年金分割のメリットはあると思います。
また、3号分割は、平成20年4月1日以降の婚姻に関する制度ですので、この先婚姻期間が長くなることで、年金額も増加することになると思います。
年金分割の手続方法について
では、年金分割をするためにはどのような手続きが必要なのでしょうか?
年金分割の手続の流れについて詳しく説明していきます。
1・年金事務所へ情報提供の請求
年金分割には、「年金分割のための情報提供通知書」という書類が必要です。
情報提供通知書は、年金分割の対象となる期間やその期間における夫婦それぞれの標準報酬月額・標準賞与額、按分割合を定めることができる範囲など、年金分割を行うために必要な情報が記載された書類です。
情報提供の請求は夫婦が共同で行うこともできますし、どちらか一方が単独で請求することも可能です。離婚前に請求することもできます。
年金分割をお考えの場合には、まず年金事務所に「年金分割のための情報提供請求書」という書類を提出し情報提供通知書を取得しましょう。
情報提供請求書は日本年金機構のホームページからダウンロードできますし、年金事務所に郵送で申請することもできますが、情報提供請求書は記載欄が多くわかりにくい箇所も多いので、戸籍謄本(婚姻期間の記載のあるもの)、年金手帳(可能であれば、夫婦両方)をお持ちの上、お住まいを管轄する年金事務所に行って記載に不備がないか担当の職員に確認いただいた方が安心です。
情報提供の請求を行ってから、情報提供通知書が手元に届くまで、3~4週間かかりますので、離婚から2年経過が間近なときには、年金事務所に相談した方が良いでしょう。
2・離婚分割(合意分割)~按分割合の決定
離婚分割の場合、当事者間で按分割合をどう定めるのか話し合います。話し合いの結果、当事者間で合意できるか否かで流れが変わってきます。
それぞれの場合について説明します。
(1)当事者間で合意ができた場合
本人同士の話し合いで、合意ができた場合には、当事者本人(もしくは代理人)が2人で、年金事務所に赴き、3で説明する年金分割の改定請求を行うことができます。
この方法が、コストや時間を最も抑えることができますが、2人で年金事務所に行くことに抵抗感が大きい場合や、相手方が応じてくれない場合も多いと思います。
その場合、公証役場で、公正証書又は公証人の認証を受けた私署証書に按分割合を明記してもらう方法があります。
また、(2)で説明する調停の申立による方法も可能です。
調停申立をする場合、公正証書等を作成するより時間はかかる場合が多いですが、公証役場に支払う手数料を節約できるというメリットがあります。
(2)当事者間で合意ができなかった場合
按分割合について当事者間で合意ができない場合には、家庭裁判所に調停の申立を行い家庭裁判所の調停委員が間に入る形で按分割合の協議を行います。
まだ離婚が成立していない場合も、離婚するかどうか、離婚の条件をどうするか等を話し合うための夫婦関係調整(離婚)の調停において年金分割についても話し合うことができます。
調停で話がまとまらない場合には、審判や離婚裁判(夫婦関係調整調停がまとまらず離婚裁判を提起する場合)で、裁判官の判断で、按分割合が決定されます。
調停や審判では、按分割合は50%と定めるのが通常です。
たまに、夫側から、妻について50%よりも低い割合を主張されることがありますが、調停や審判で50%以外の割合が定められるのはごく例外的な場合です。
3・年金分割改定請求手続
離婚分割(合意分割)、3号分割どちらの場合も、当然に年金分割がされるわけではなく、社会保険庁に対し年金分割改定請求を行う必要があります。
上記2で説明した2人で年金事務所に行く場合以外は、一人で手続をすることができます。
具体的には、年金事務所に、「標準報酬改定請求書」を提出します。この書類も日本年金機構のホームページからダウンロードできますが、やはりわかりにくいので、お住まいを管轄する年金事務所に行って、手続していただいた方が安心です。
公正証書、調停調書、審判調書等の按分割合が記載された書面(3号分割の場合は不要)のほかに、戸籍謄本、年金手帳、運転免許証等の身分証明書を持参ください(詳しくは、年金事務所にご確認ください)。
分割改定請求を受けると、年金事務所は、按分割合に基づき当事者それぞれの保険料納付記録の改定を行います。
そして、改定後の保険料納付記録を当事者それぞれに「標準報酬改定通知書」を送付する扱いになっています。
年金分割でお困りの方は当事務所までご相談ください!
先述したように年金分割には期間制限があるため、原則として離婚成立時から2年以内に年金分割改定請求を行わなければなりません。
年金受給年齢に達したときに後悔しないために、離婚する場合には年金分割を積極的にご利用いただければと思います。
年金分割の制度はわかりにくい部分も多いので、離婚をお考えの方や年金分割について話し合いをせずに離婚をなさった方は是非当事務所までご相談ください。
当事務所では年金分割など、離婚に関するトラブルの無料相談を行っています。
電話・メール・面談での相談が可能ですのでお困りの際はお気軽にご利用ください。