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  • 辞職と解雇。労働契約を終了する、させる様々なケースについて
  • 辞職と解雇。労働契約を終了する、させる様々なケースについて
    ほっかい法律事務所
    種田 紘志

    現在はライフワークに合わせた様々な働き方があります。

    働き方が増える=雇用形態も多様化しているため、正社員、契約社員、アルバイトなど様々な雇用形態がありますが、どのような雇用形態であっても労働契約を締結することとなります。

     

    雇用主が労働者に労働条件を明示し、お互いが条件について合意した上で労働契約を結び労働するわけですが、その後何らかの理由により労働契約を終了せざるを得なくる場面もあるでしょう。

     

    今回は、この労働契約の終了についてお話です。

     

    労働契約の終了には「辞職」「解雇」などいくつかケースがありますので、それぞれのケースについてご説明いたします。

     

    労働契約の種類

    まず、労働契約は大まかにいうと

    ① 期間の定め(労働契約の有効期間を設定したもの)のない労働契約

    ② 期間の定めのある労働契約(いわゆる有期契約)

    の2つに大別されます。

     

    まずはこのうち①における契約の終了の一部についてご説明いたします。

    ①の形態における労働契約の終了については、労働者の方から行う「辞職」と双方が合意することで契約を終了させる「合意解約」、使用者の方が行う「解雇」の3つが挙げられます。

     

    労働者側から労働契約を終了する「辞職」

    期間の定めのない労働契約の場合、辞職は、2週間の予告期間を置いたうえであればいつでも可能というのが原則です。

     

    もっとも、報酬が月給制となっていた場合には、辞職の申入れは翌月以降分にしか行うことはできず、かつ、この申入れは、当該期間の前半に行う必要があるとされています。
    (実際にはこちらのケースで辞職となるほうが多いかもしれません。)

     

    さらに、報酬が年俸制であった場合には、3か月前にその意思表示を行う必要があるとされています。

     

    また、辞職の意思表示は使用者に到達した時点で効力を生じますので、意思表示をする際の状況次第ではありますが、それ以降に「やっぱり辞めない」といって撤回をすることは原則としてできません。
    (状況の例として、労働者を長時間部屋にとどめながら退職を強要した結果辞職の意思表示をしたといった場合には意思表示は無効と評価される可能性があります。)

     

    辞職との関係で問題となるのは、使用者の側で退職勧奨を行っていた場合が考えられます。

    退職勧奨は、労働者の意思を尊重しつつ行われる手続でありますが、他方で、使用者により半強制的に行われてしまうリスクを内在しています。

    ですので、労働者・使用者いずれの立場に立っても、退職勧奨のケースにおいては、その手続がどのようにして行われたのかを記録等しておくことは後々の紛争の種を取り除く意味でも重要なことではないかと思います。

     

    双方の合意で労働条件を終了する「合意解約」

    続いて、合意解約とは、労働者と使用者が合意によって労働契約を終了させるものであり、辞職や、次回ご説明する解雇とは区別されるものです。

    この手続は双方の合意により契約を終了させるものですので、辞職とは異なり、期間の制限などはありません。

     

    もっとも、もちろん、辞職と同様、意思表示に問題はないかという点は問題となりえます。

     

    これらの2つの手続で問題となりやすいのは、労働者の意思表示が、辞職の意思表示なのか、合意解約の意思表示(法律的にいうと申込、申入れといいます。)なのかという点です。

    具体的にいえば、この2つは撤回ができるかどうかという点について違いが生じます。
    (もっとも、合意形成前にはなりますが)

     

    この点の判断材料としては、労働者の方がどのような対応をしたか、使用者の方の対応を待つ趣旨かどうかといった事実関係を検討することとなります。

     

    使用者が労働契約を終了させる「解雇」

    次に「解雇」についてお話をさせていただきます。

     

    解雇は、期間の定め(労働契約の有効期間の設定)のない労働契約を、使用者の側から終了させる行為を言います(一般的に「クビ」といった表現もされます。)。

     

    さて、この解雇ですが、大きく分けると3つの類型があると言われています。

     

    1・労働者側の事情による解雇(「普通解雇」といった説明をすることもあります。)

    2・使用者側の事情による解雇(経営上の理由を指すことが多く、「整理解雇」とも呼ばれます。)

    3・懲戒規程に基づいた解雇(「懲戒解雇」とも呼ばれます。)

     

    3つの類型に共通すること

    まず、解雇で重要となる点、共通する点としては、解雇は、労働者の生活への影響が大きいことから、解雇を有効に行うためには、厳しい要件が設定されています。

     

    それは、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」というものです。

    これは労働契約法という法律の条文ですが、解雇については、この条文の記載を充たすかどうか、つまり①客観的に合理的な理由があるといえるか、と②解雇が社会通念上相当といえるかが重要なファクターです。

     

    では、それぞれの解雇について見ていきましょう。

     

    1・労働者側の事情による解雇「普通解雇」

    非常にざっくりと言うと、この場合の「合理的な理由」とは、労働者の労働能力や適格性が低下・喪失した場合や労働者の義務違反や規律違反行為(懲戒解雇になる場合にもありますが、今回はこちらの類型を想定します。)が多いです。

     

    このうち、労働能力や適格性の問題については、まず、検討されるべき職種(や配置部署)の範囲の設定をすることとなります。

    例えば、タクシー運転手として採用された人が、その後二種免許を喪失し、運転手になれなくなってしまった場合であっても、使用者が他の職種を提供できる可能性もあることから、運転手になれなくなったことのみをもって解雇することは許されないとした裁判例が存在します。

     

    このように、職種の範囲を広くとるか狭くするかは、採用したときの業種からだけでは決まりませんので、ご留意下さい。

     

    また、個人的な経験からしますと、単純に能力不足だからという理由で解雇をした場合にはこの解雇が有効となるケースは少なく、そこからさらに勤務継続が困難となるだけの事情が求められているように思います。

     

    続いて、労働者の義務違反、規律違反についてですが、その義務違反行為だけを取り上げるのでは無く、そこに至るまでの過程など、幅広い観点から検討されることになります。

     

    また、上記の点が仮に存在するとしても、その理由から直ちに解雇が適正なものであったかというのはさらに検討が必要となります。例えば、解雇以前に別の手続きを取り、改善を促す必要があったのではないか、などです。

    先程もふれましたように、理由があったからといって、解雇が「相当」といえるかは別途考慮する必要があるからです。

     

    解雇というのは法的問題になりやすく、する方もされた方も、その有効性については一度弁護士へ相談した方が良いように思います。

     

    2・使用者側の都合による解雇「整理解雇」

    次に使用者側の都合による解雇「整理解雇」についてご説明いたします。

     

    (例えば事業縮小に伴う解雇など)使用者側の都合によって解雇を行う場合、その解雇は労働者側の事情を直接の理由とするわけではありません。

    したがって、普通解雇の時と比べ解雇が許容される場合がより限られると考えられています。

     

    では、どのような場合であれば解雇が許容されるのでしょうか(逆に言えば、どういう場合で無くては整理解雇ができないのでしょうか。)。

     

    この点について、裁判例においては、以下の4点を考慮して検討すると言われており、それにより、合理的な理由が存在するかといった点が判断されております。

     

    ①人員削減の必要性

    経営上の理由により人員削減をする必要性があると言えるかという要素を指します。

     

    この中には、人員を削減しなくては経営が立ち行かないという場面もあれば、経営方針が変更となり余剰が生じた場合もありえ、様々な場面が想定されるところです。

    この点について、裁判所は、資料等の提示は求める一方で、最終的には会社側の判断を尊重する傾向には有るようです。

     

    もっとも、だからといって全て会社の判断が尊重されるわけでは無く、会社が矛盾した行動を取っていたような場合(例えば、整理解雇を行いつつ新卒で採用を行っていた場合など)には、この要素は無いという判断がされる傾向にあります。

     

    ②解雇回避努力

    解雇を行う前に、解雇をできる限り回避するための手段を講じていたかという要素を指します。

     

    ここにいう措置とは、ありとあらゆる全ての措置、という意味では無く、その会社において、経営上合理的と言える範囲の努力を行っていたかという観点から検討されることとなります。(他方で、ありとあらゆる措置でなくてはならないという考え方もあるようではあります。)

     

    ③人選の合理性

    整理解雇を行うに当たっての人選が恣意的なものでは無く、合理的で客観的な基準に依拠しているかという要素を指します。

     

    この要素に関しては、例えば、基準が開示されているか、基準が合理的なものといえるか、その基準を適切に適用しているかといった点を考慮することとなります。

     

    そしてこの基準については客観的なものである必要がありますので、例えば「責任感」、「協調性」といった具体的とはいえない基準のみを運用しているようですと主観的にすぎないという判断がなされる傾向にあります。

     

    ④手続の妥当性

    解雇における規定がある無しに関わらず、労働者に対して、説明を行い納得を得るために誠意を持って協議しているかという要素を指します。

    規定がある場合には勿論その規定に基づいた履践がなされているかも検討されます。

     

    以上の点を複合的に検討して、有効性が判断されることとなりますが、複数の点を総合的に検討して判断がなされるため、専門的な検討が必要な分野では無いかと思います。

     

    3・懲戒規程に基づいた解雇「懲戒解雇」

    最後に「懲戒解雇」についてご説明したいと思います。

     

    懲戒解雇は、同じ解雇といっても、「懲戒」の一環として行われるものですので、また、「このままだと懲戒解雇にするけど、自主退職と言うことにしたら退職金もあるし、お互いにとって良いのではないか」といった話をされて退職に至ったというような場合も経験をしたことがあり、このような話との関係についてもお話をさせていただければと思います。

     

    懲戒解雇の効果

    懲戒解雇の場合、その多くが、解雇予告手当なしにされることが多いと思われます。

    これは、法律上、労働者の責めに帰すべき事由に基づいて解雇する場合には解雇予告手当の支払義務が無いと定められていることが理由となります。

     

    このほか、会社によっては、通常であれば支払われるはずの退職金の一部あるいは全部を不支給とするという取扱いをしているところもあるかと思います。

     

    この点に関しては法律上明文の規定があるわけでは無く、会社毎における退職金の定め方、性質や懲戒事由の内容に基づいて検討をすることとなります。

     

    懲戒解雇の要件

    懲戒解雇は懲戒の一環ですので、まずはその判断は、(諸説有るところではありますが)懲戒の規定に基づき判断されることとなります。

     

    もっとも、その判断基準については、以下のとおり定められており、これまでご説明した、他の解雇の場合と文言としては余り変わらないのではないかという印象を持たれるのではないかともいます。

     

    労働契約法15条
    「使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は無効とする。」

     

    文言として、違いがあるのは、「使用者が労働者を懲戒することができる場合において、」という点が大きいと思われます。

    これは懲戒の中身に入る前の大前提となるものです。

    そもそも、会社は自由に懲戒処分を行うことはできません。

     

    まず、懲戒を適法に行うためには、懲戒の理由となる事由(このようなときに懲戒がされるというもの)及びこれに対する懲戒の種類・程度が就業規則において規定されることが必要となります。
    (勿論、就業規則は有効なものでは無くてはならず、どのような場合に就業規則が有効となるかは、就業規則の変更は必要?就業規則と労働条件の関係をご覧ください)

    その前提を充たした際に、上記法律の規定に従って、判断がなされることとなります。

     

    懲戒解雇は会社として行うに当たっては非常にハードルが高いものですし、労働者としても、不利益が大きいものです。

    それ故、懲戒解雇をにおわせつつ退職へと導くといったことも起こっておりますが、これらの有効性等につきましては、極めて慎重に行われるべきものと考えます。

     

    辞職・解雇などの労働問題でお困りの方はご相談ください

    辞職、合意解約や解雇という点においては、様々な問題が生じやすい状況となっております。

    解雇というのは法的問題になりやすく、する方もされた方も、その有効性については一度弁護士へ相談した方が良いように思います。

    特に懲戒解雇が関連する退職等については、弁護士への相談が必要不可欠では無いかと思っています。

     

    私たちほっかい法律事務所においても労働問題に関する相談を受け付けております。

    労働者の方からのご相談は無料相談も承っておりますので、ご自身のことなどでお悩みの方がいらっしゃいましたら是非ご相談ください。

    労働者側だけでなく使用者側の労働問題のご相談も受け付けておりますので、お困りの際はお気軽にご相談ください。