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相続放棄と相続放棄検討中の相続財産管理について ほっかい法律事務所横山 尚幸※横山尚幸弁護士は令和3年6月30日をもって当事務所を退所いたしました。本記事は当事務所在籍中に執筆したものです。相続は人の死亡によって開始し(民法882条)、相続人は相続開始の瞬間から被相続人の財産に属した一切の権利義務を、当然かつ包括的に承継することになります(法896条)。
もっとも、相続人は自分が相続人となる相続の開始があったことを知ったときから3ヶ月間は相続の単純承認、限定承認又は相続放棄を選択することができるとされています(法915条)。
今回取り上げるのは、相続放棄についてです。
合わせて、相続放棄を検討している相続人は相続放棄をするまでの期間中、自分のために自由に相続財産を使っても良いのか?という疑問点など、「相続放棄検討中の相続財産管理」に関してもお話していきます。
まずは相続放棄の基本について
相続放棄を行うと、初めから相続人とならなかったという効果が生じます(法938条)。
被相続人が多額の債務を負っていた場合に選択されることが多い手続きとなります。
相続放棄をするためには、相続放棄する旨を家庭裁判所に申述する必要があります(法939条)。相続放棄申述書(書式は,各地の裁判所のホームページにあることが多いです(札幌家裁書式例)。)を家庭裁判所(被相続人の最後の住所地の家庭裁判所)に提出することになります。
家庭裁判所はこれを受けて、相続放棄の申述受理・不受理の審判を行います。
具体的に家庭裁判所は
①申述が法定の方式によりなされているか
②申述人が推定相続人又はその法定代理人であるか
③相続放棄の申述が真意に基づくものであるか
④熟慮期間内になされているか(「自己のために相続があったことを知った時から3ヶ月以内)
⑤法定単純承認の事由がないか(相続放棄検討中の相続財産の管理などが問題になる)
を確認します。
相続放棄検討中の相続財産管理
相続放棄をするか否かは、基本的には「自己のために相続の開始があったことを知った時から3カ月以内に」(民法915条1項)判断をしなければなりません。
では「相続放棄を検討している相続人は相続放棄をするまでの期間中、自分のために自由に相続財産を使っても良いのか?」という疑問点を解決していきましょう。
民法921条では,次のような事由があった場合に,相続人が単純承認(=相続人が,無限に被相続人の権利義務を承継するということ)をしたものと「みなす」と規定されおり,相続放棄が認められるためには、単純承認事由が存在しないことが必要とされております。
ⅰ相続人が相続財産の全部又は一部を処分した場合
ⅱ相続人が熟慮期間内に限定承認や相続放棄をしなかった場合
ⅲ相続人が限定承認や相続放棄をした後に,相続財産の全部一部を隠匿する等背信的行為を行った場合
先ほどの質問は、ⅰに関連する質問です。
遺産を自分のために自由に使ってしまうとⅰ相続財産の全部又は一部を処分したとして法定単純承認事由に該当することとなり、相続放棄をすることができなくなります。
難しいのは、ココからです。
ⅰに関する民法921条には続きがあり、「保存行為」であれば法定単純承認には該当しないとされています。
では何が「処分」に当たり、何が「保存行為」に当たるのでしょう?
一般的には「処分」とは、財産の現状、性質を変える行為を指すと解されております。
相続財産の売却等法律上の行為はもちろん、例えば相続財産である家屋を取り壊す等の事実上の行為も含まれるとされております。
一方「保存行為」とは,財産の現状を維持する行為といわれております。
修繕・補修、腐敗しやすい物の廃棄等がこれに含まれると解されております。
問題は「処分」や「保存行為」の意味や典型例を聞いただけでは、何が「処分」に該当するか「保存行為」に該当するか判断がつかないことです。
さらに「処分」に該当するか否かを判断する際には、経済的意義も考慮すると考えられており、経済的に重要性を欠く形見分けの場合には、この「処分」には該当しないと解されております。説明を聞けば聞くほど、判断が益々難しくなってくるところです。
審判の結果について
では家庭裁判所が申述を相当と判断し受理の審判を下した場合に、相続人は絶対に被相続人の被相続人の債務を返済しなくて済むといえるのでしょうか?
結論は、否です。
相続放棄受理の審判は相続人の相続放棄の意思表示を公証するにすぎず、上記実体要件を備えていることを確定させるものではないからです(誤解されがちなところです)。
そのため、被相続人の債権者は相続人に対し被相続人が負っていた債務を訴訟で請求し、訴訟の中で相続放棄の効力を争うことができます。
一方審理の結果、申述を不相当と判断した場合、家庭裁判所は申述却下審判をします。
却下審判に対しては即時抗告をすることができます(家事事件手続法201条9項3号)。
却下審判が確定した場合、基本的には相続放棄を主張することができなくなり、相続人は自己固有の財産からも債務を返済しなければならなくなります。
すなわち、相続放棄受理の審判を行っても、債権者は改めて訴訟にてその効力を争うことができる一方、却下審判が確定した場合には相続人は固有の財産からも借金等の返済を迫られ、回復しがたい損害を被ることになるということです。
そのため、実務では相続放棄の申述について、明らかに要件を欠くと認められない場合には受理することが相当であるとされております。
相続放棄の申述を自分で行う方が多いのは、そのためでしょう。
弁護士が代理人となる必要性が高い場面は、申述が不相当とされた場合の即時抗告や被相続人の債権者との間で相続放棄の効果が争いになった場面が多いかと思います。
特に、④熟慮期間内になされているか⑤法定単純承認の事由がないかという点が争いになる場合には、専門的知識が必要かと思います。
上の段落でもお話しましたが、相続放棄受理の審判は相続人の相続放棄の意思表示を公証するにすぎず、実体要件を備えていることが確定させるものではなく、被相続人の債権者は相続人に対し被相続人が負っていた債務を訴訟で請求し、その中で相続放棄の効力を争うことが可能とされております。
相続放棄をし家庭裁判所に受理の審判を行ってもらったにもかかわらず、被相続人の債権者から相続放棄の効力を争われたような場合には、当事務所の遺産相続の無料相談をぜひご活用下さい。