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人身事故と物損事故の違いは?物損事故扱いにした場合のリスクも ほっかい法律事務所横山 尚幸※横山尚幸弁護士は令和3年6月30日をもって当事務所を退所いたしました。本記事は当事務所在籍中に執筆したものです。交通事故についてご相談にいらっしゃった方からよくご質問を受ける事項として、「人身事故」と「物損事故」の違いという点があります。
また、加害者から、人身事故であったにもかかわらず「生活がかかっているので物損事故扱いにしていただけないでしょうか」といわれるケースも時々あります。
みなさんは「人身事故」と「物損事故」がどう違うかご存知でしょうか?
今回は交通事故での「人身事故」と「物損事故」両者の違いについてと、人身事故を物損事故扱いにしてしまった場合のリスクについてお話していきます。
「人身事故」と「物損事故」の違い(1)
「人身事故」では刑事処分や行政処分(免許停止等)を受けることがあるが、「物損事故」それ自体では刑事処分や行政処分を受けない
「人身事故」の場合、加害運転者には自らの不注意な運転により人に怪我をさせてしまったということで、「自動車運転過失致傷罪」という犯罪が成立します。
そのため被害者の怪我が重たい場合や、過失の内容が悪質な場合などには、罰金刑を科されたり、場合によっては懲役刑を科されることもありえます。
(もっとも、何度も人身事故を起こしているような人でなければ、被害がさほど大きくない事案では刑罰を科されない形で事件処理が終わることが多いです。)
また、「人身事故」の場合は行政処分の対象にもなります。
これは端的にいえば免許の点数を引かれて、場合によっては免許停止や免許取消しという事態もありうるということです。
以上に対して「物損事故」の場合は、それ自体では刑事処分も行政処分も科されることはありません。
違反点数の加算がないので、ゴールド免許を持っている方が「物損事故」を起こしても、「物損事故」それ自体では、ゴールド免許に影響しないということです。
「物損事故」それ自体ではと繰り返し記載しているのは、無免許で物損事故を起こした場合や酒気帯び状態で物損事故を起こした場合には、当然に道交法違反となり処罰の対象になることがあるためです。
気をつけて頂きたいのは,報告義務違反いわゆる「当て逃げ」です。
運転者は、たとえ物損事故を起こした場合であっても警察官に「交通事故が発生した日時及び場所、当該交通事故における…損壊した物及びその損壊の程度」等を報告する義務を負います(道交法72条1項後段)。
この報告を怠った場合、「三月以下の懲役又は五万円以下の罰金」がかせられる可能性があります(道交法119条10号)。
なお、「物損事故」でも、壊したものに対する損害賠償義務は発生します。
もっとも、「物損事故」の場合、自賠責保険は利用できません。
損害賠償は任意保険で支払うか、加入していない場合には自腹で払う必要があります。
破損した物によっては、賠償額が高額になるケースもございますので、任意保険(対物賠償)には加入しておくことをお勧めします。
「人身事故」と「物損事故」の違い(2)
事故状況に関する詳細な資料が作成されるのは「人身事故」のみ
違い(1)でご説明させていただいたとおり、「人身事故」の場合、刑事処罰を受けることがあります。
そのため警察が、例えば窃盗事件や殺人事件などと同様に犯罪が発生したとして、どのような事実関係があったのかを捜査し、実況見分(当事者や目撃者立ち会いのもと事故現場において、事故当時の状況について詳細な調査を行うことです。)・事故当事者や目撃者から事情聴取を行うなどして、証拠を確保するための活動を行います。
これらの証拠は「実況見分調書」や「供述調書」という形で書類化されていきます。
そして証拠のうち一部については、事後に被害者がその写しを取得することも可能とされています。
事故の発生について双方に一定の責任があると思われるようなケースにおいては、しばしばどちらがどのくらいの割合で責任を負うか(いわゆる「過失割合」をどうするか)という点で争いが生じます。
この時に上記の実況見分調書など、警察によって作成された証拠があると、それを有利な材料として用いることで、事件の解決に向けた交渉を有利に進めることができることもあります。
これに対して「物損事故」の場合、「物損事故」自体は犯罪でないことから、犯罪に対する捜査機関である警察は、特に事故に関する詳細な資料を作成することはありません。
そのため物損事故の場合は、しばしば当事者自身の認識以外に何ら事故の発生原因を特定する材料がなく、過失割合について交渉が難航するということがあります。
私は時々ご相談にいらっしゃった方から『怪我がそんなに重たくはなかったし、事故直後にちゃんと加害者が謝ってくれたから免許の点数を引かれるのもかわいそうだと思って、人身事故して届出はしていません』いうような話を聞くことがあります。
ですが、単純な追突事案や相手方の赤信号無視など、事故発生の原因について事後に争いが生じる心配が少ない事案でない限り、ちゃんと「人身事故」として警察に捜査活動をしてもらっておいた方が、後になって事故状況に関する証明手段に苦労するというような事態の発生を回避できる余地があるといえます。
人身事故を物損事故扱いにした場合のリスクについて
人身事故と物損事故の違いについて知ったところで、次は人身事故にも関わらず加害者から「物損事故にしてほしい」との申出により、物損事故扱いにしてしまうケースについてお話します。
加害者にとって人身事故扱いとなる最大のデメリットは、自動車運転過失致死傷等の犯罪に問われる可能性が出てくること。
それが免許停止などの処分繋がる可能性もあるという点にあります。
タクシーやトラックなど業務として車の運転をしているドライバーにとっては、人身事故扱いになるかどうかは生活に直結する問題であるため、そのような申出がされることがあるのです。
この場合、まずどのような問題があるかみていきましょう。
物損事故扱いに惑わされる理由とは
物損扱いとして欲しいという要望があった場合は、その交換条件として過失を100%認めて損害全額を賠償するといった申出がされることが多いと思います。
被害者としては、加害者の生活がかかっているとまで言われると拒否しにくくなりますし、損害賠償について有利に扱ってもらえるなら損はなさそうだと考えやすい場面です。
物損事故扱いにすると、保険会社が人身損害部分の損害賠償に応じず、病院に対する治療費の支払もしないのではと心配される方もおられますが、加害者が事故直後から保険会社に事故報告をしていれば、そういう対応が取られることはまずありません。
そうすると物損事故扱いとするデメリットはなく、むしろ賠償額が有利になるのであれば,加害者側にも被害者側にもメリットのある取引のように思えます。
物損事故扱いにした場合のリスクとは
しかし、本当にそういえるのでしょうか。
もしこの場面で弁護士として相談を受けたとすると、私の回答は迷っているなら絶対に人身扱いにすべきとなります。
結果的に被害者側も経済的に有利な条件で解決できたというケースも中にはあると思いますが、そのように想定どおり解決するケースばかりではありません。
■示談交渉での誤算
私の経験では物損事故扱いにして治療終了後にいざ保険会社と示談に向けた話し合いに入っても、被害者側の過失を指摘されて、賠償額の減額を主張されるというケースが意外と多いです。
保険会社としても加害者(保険契約者)の意向をある程度踏まえて示談交渉を行うことが多いと思いますが、それにも限界があり、100%の過失を認めることができないケースというものが必ず出てくるのです。
■事故状況の確認が難しくなる
特に、加害者が保険会社に申告している事故状況とこちらの認識している事故状況に食い違いが生じているときはやっかいです。
このように事故状況の認識に食い違いがあるときは、警察が作成した実況見分調書を取寄せ、実際の事故状況がどのようなものだったのかを把握するのが通常です。
実況見分調書には詳細な事故状況の説明が記載されています。
しかし、「人身事故」との違いで述べた通り、物損事故扱いにしていると実況見分調書は作成されません。
物損事故においても警察を呼んでいれば、物損事故報告書という文書が作成されていますが、これは実況見分調書に比べると内容の詳しさ・正確さにおいて劣るものであり、事故状況確認の切り札にはなりにくいのです。
物損事故扱いにしてしまった場合、人身事故扱いに切り替えられる?
その時点で、警察に行って事後的に人身事故扱いに切替るということもでき、その場合には実況見分調書が作成されます。
しかし、警察は交通事故から数ヶ月後の切替にはなかなか応じないことがありますし、事故から数ヶ月後に実況見分をやっても正確な事故状況の再現は難しいという問題があります。
このようなリスクがある以上は、事故発生の当初から人身事故扱いにして、正確な実況見分調書を作成することを優先させるべきということになります。
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