交通事故による治療費の支払いと労災保険

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交通事故によるケガの治療費の支払いに労災保険を使う必要はあるの?

勤務中・通勤中の事故の場合は、労災保険を使いましょう

勤務中や通勤中の交通事故の場合は、勤務先の会社を通じて労災保険(公務員の方の場合は、公務災害保険)を申請することで、労災保険から治療費を支払ってもらうことができます。

この場合に、労災保険を使うのか、相手の任意保険を使うのかは、被害者が決められることで、どちらを先に使うべきかという順番については、何も決められていません。

しかし、ここでも健康保険の場合と同様に、相手の保険会社に治療費の支払を任せておくと、労災保険を使った場合と比較して、損害賠償を受ける金額が減ってしまうという問題があります。

「治療費の支払いに健康保険を使う」で使った例で説明すると、相手の保険会社を使った場合(自由診療)の治療費が200万円だとすると、労災保険を使った場合(労災保険診療)の治療費は120万円で済むことになります。

そうすると、労災保険を使った場合は、損害の合計額が420万円で、過失相殺後の損害額が420万円×80%=336万円になり、加害者に損害賠償を請求するときは、ここから労災保険が負担した120万円から過失相殺計算を行なった96万円を差し引くことになります。

そうすると、このケースには、240万円の賠償を受けることができることになり、相手の保険会社に支払を任せていたときと比べて、40万円受け取る金額が大きくなります(健康保険の場合とは計算方法ルールが異なるので、受け取る金額も違ってきます。)。

労災保険は、健康保険と違って、被害者が治療費を負担することもありませんので、過失相殺が問題となるケースで、労災保険を使える場合には、迷わず労災保険を使いましょう。

また、「治療期間中の生活費を確保する」 「症状固定後の生活費を確保する」でも説明するとおり、労災保険を利用すれば、事故の怪我で働けなくなったときや後遺障害が残ったときに、相手の保険会社からの示談金とは別に、手厚い補償を受けられるので、労災保険を申請するメリットは非常に大きいと言えます。

「治療費の支払いに健康保険を使うとき」で説明したのと同じように、最近では、相手の保険会社から治療費に支払いに労災保険を使うようにお願いされることがありますので、その際には労災保険の申請を積極的に検討した方がよいと思います。

任意保険は労災保険に先行する?

労災保険の申請は、勤務先の会社を通じて行うことになりますが、会社によっては、相手の任意保険が使えるときは、相手の任意保険が先行するという理由で、労災保険の申請に協力してくれない会社もあります。

しかし、相手の任意保険と労災の両方が使える場合に、どちらを優先的に利用するかについては、法律上のルールがあるわけではなく、「任意保険は労災保険に先行する」という言い分は間違った知識なのです。

労災保険と任意保険のどちらを使うのかは、被害者が判断して選ぶことができるので、勤務先の会社に遠慮することなく、労災保険を使って良いのです。

労災保険に未加入の会社でも労災申請を諦める必要はありません

また、労災保険の加入が義務づけられているにも関わらず、従業員を労災に加入させていなかったり、労災保険料を滞納しているような会社では、労災保険の申請ができないと諦めてしまうケースもあります。

しかし、このような場合でも、労災事故の被害者は、労災保険の「事故後適用」を申し立てることで、労災保険を受け取ることができます。

ただし、労災事故の被害者が「事故後適用」を申請すると、その会社は、被害者に支払われた労災保険金のうちの一定割合の金額を国から徴収されることになります(このようなペナルティーを「費用徴収」といいます。)。

そのため、「事故後適用」の申請には躊躇を覚える方が多いのも現実であり、特に、相手の任意保険が使える場合には、「事故後適用」を申請せずに、相手の任意保険だけを利用するというケースが多いように思います。

しかし、特に交通事故により大きな怪我を負ったようなケースでは、労災保険を使うことによって、より多くの賠償金を受け取ることができるようになるので、そのようなときには、「事故後適用」の申請を積極に検討した方がよいと思います。

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